第301話 15章:赤のフォーク(15)
「それはさておき、地下の施設について気になる点が2つある」
「気になる点……ですの?」
「まず一つは、育てるにしても赤ん坊が必要ってことだ」
「さらってきたんじゃ?」
オレも最初は双葉と同じように考えた。
「たしかに日本中で行方不明者がたくさん出ている。だが、自分の意思で行動できない赤ん坊がたくさん行方不明になると、世間的に目立つはずなんだ」
「そうか、ヴァリアントに喰われたのでなければ、記憶からは消えないし」
由依の言う通りだ。
それは赤ん坊のいる家族を食べても同じことだ。
いちいち、赤ん坊の親戚を皆殺しにするわけにもいかないだろう。
「それに山形は、『ここで生まれて意識もないまま栄養を注入されて育つ』と言っていた」
「ポッドの中にいた人達が、子供を作るとは思えませんわね」
体外受精は未来ほど普及した技術ではない頃だったはず。
この施設を維持するだけでもかなりの金がかかるはず。
人間を培養するポッドなんて、未来の技術にも近い代物だ。
もっとも、まともに育つ必要はないのだから、薬品と栄養さえ確保できれば不可能ではない……のか?
「安全で手っ取り早いのは自分達で産むことだな……」
全員が顔をしかめたが、誰も発言はしない。
おぞましい話だが、魚だって水槽で飼っていると自分の子供を食べたりする。
今のところこの説が有力だろうか。
問題は、わざわざ自分でたべるために子供を作るなんてことをするかだが。
「2つ目は、この技術はどこから来たかってことだ。ヴァリアント達が自分で研究したというのも否定はしないが……」
「研究施設を自分達でたくさん持つようなイメージはないわね。そういうのが好きな変わり者はいるかもしれないけど」
オレも由依と同じ意見だ。
何よりも食欲を優先する奴らが、辛抱強く研究を続けられるとは思えない。
「華鈴さん、この果樹園ができたのは?」
「2年前ですわ」
「六条グループに医療機器や薬剤系の研究機関はあるか?」
「…………ありますわ」
まあそういうイヤな顔になるよな。
さすが華鈴さんだ。
一瞬首を傾げた由依も、すぐに回答にいきついたらしく、眉をひそめ、華鈴さんの顔を心配げに見た。
「えっと……どういうこと?」
双葉には少し説明が必要だな。
「地下のポッドには、どう見ても3歳以上の人間もたくさん入っていた。
果樹園が始まった時期と、ポッドにいた人間の成長具合が合わない。
それに、妊婦もいたしな」
もし仮に成長を促進させる方法なんてものがあったとしても、2倍になったりはしないだろう。
それこそSFの世界だ。
ヴァリアントにそういった能力を持つ者がいるなら別だが、それ以外の可能性も考えておくべきだろう。
妊婦は他の人間達と違い、一見異常な育ち方はしていなかった。
どこかから妊婦をつれてきて、生まれたところでポッドで育成していたということか?
妊婦の時からポッドに入れて、胎児を『嗜好品』として育成していたのかもしれない。
「なんにせよ、ここの地下は量産施設で、研究所的な場所があったはずだ。
年齢の高い人間は、ここができた2年前に研究所から運ばれてきたはず。
そうなると、六条グループの息のかかった何かが関わっていると考えるのが普通だな。
その研究所が手がかりだ」
「でもって、赤ちゃんと、技術の出所を探して潰さなきゃだね」
端的に言うと双葉のいう通りだ。
だがそれは、六条グループに何かしら不利益が発生することでもある。
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