第300話 15章:赤のフォーク(14)
「だからってなぜうちの地下に作る必要があったんですの……?」
それが気になる点だ。
いまのところ六条家がヴァリアントと手を組んでいる可能性は低そうだ。
もしそうならば、事情を知らない華鈴さんの果樹園などを使わず、事情を知る人間だけが出入りできる専用の場所を用意した方が良いからだ。
「新規に建設される大規模果樹園。潤沢な予算……。紛れ込ませるには都合が良かったんじゃないか。工事業者を脅したか買収したか。山形みたいな連中を潜り込ませることもできるしな」
「身辺調査はさせたはずですのに……まさか……」
「調査関係者もグルだろうな」
「やられましたわ……」
華鈴さんはぐったりと背もたれに寄りかかった。
初めての事業がこんなことになっては、落胆するのも無理はない。
「こんなことをした連中、とっちめてやらないと気が済みませんわ」
「おいおい、頼むから変な気は起こさないでくれよ。神器なしで普通の人間が勝てる相手じゃないんだ」
「あら、先程はあっさり勝ってましたわ」
「カズは特別なの」
「なぜ由依さんが得意げですの……。ご心配には及びませんわ。あんなのと直接戦おうだなんて思ってはいませんもの。私なりのやり方で戦いますわ」
「華鈴さんなりって……?」
この人、変な暴走しないか心配なんだよな。
「まずはカズさん。私と結婚してくださいまし」
「「「なんで(だよ)!?」」」
華鈴の申し出に三人がキレイにハモった。
「私にヴァリアントと戦う力はありませんわ。おそらく六条家にはその人脈も。カズさんは対ヴァリアントのスペシャリストの中でも屈指の実力をお持ちなのでしょう? その方と縁者になれば、私の果樹園に手を出した愚か者に鉄槌を下すことへの協力ができますわ。何か不思議があって?」
うわぁ……この人、本気で言ってるぞこれ。
「そ、そんな理由で結婚だなんて……」
「あら由依さん。私達にとって結婚こそ最大の武器の一つであることはご理解されてますでしょう?」
「私はそんなことしないわ。もうそんなことする必要ないもの」
となりに座る由比が、ぐいとオレに腕を絡ませてくる。
うーん、やわらかい。
「妹として、そんな理由での結婚は認められませんね」
双葉が逆から腕を絡ませてくる。
「大丈夫、家の事業は私がしっかり継ぎますわ。生活に不便はさせなくてよ」
「そこじゃないんだが……」
「ああっなるほど! お気持ち表明がまだでしたわね。カズさんのこと、好きですわよ。ぽっ……」
頬に手を当てて、視線を逸らせてみせる華鈴さんである。
「いやいや、『ぽっ……』じゃないんだわ」
みさくら戦争3は発売前なんだが?
「あら本気でしてよ? 危機を助けて頂いたとかではありませんわよ絵を褒めて頂いた時から、きっと愛してしまったのですわ」
「絵を~?」
「何のこと? お兄ちゃん~?」
あ……由依と双葉の視線が痛い。
やましいことは何もないんだけどな。おかしいな。
「華鈴さんと結婚をするつもりはないが、今回の件は調査を進めるつもりだ」
「ふふっ、今はその答えでよいですわ。でも、あきらめませんわよ」
にやりとわざとらしく笑って見せた華鈴さんの耳は、少し赤くなっていた。
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