第295話 15章:赤のフォーク(9)

 オレは山形との距離を一瞬で詰めると、彼の腕を捻り上げた。


「は!? いつの間にいたたたただだだ! 折れる! 折れるぅ!」


 わめく山形がオレの身体をタップしてくるが――


 ――ゴキンッ。


 無視して左肩を外した。


「ぎゃああああっ! いてえよおおおおお!」


 折られなかっただけ感謝してほしい。


「ひぃ……ひぃ……」


 逃げようと暴れる山形の右腕をねじり上げた。


「依頼人は誰だ?」

「知らねえよお!」


 ――ゴキンッ。


「ぎやあああああ!」


 両肩を外された山形がのたうち回る。

 オレはその背を踏みつけた。


「次は足だ。関節を外すだけじゃすまんぞ」

「オレが何したってんだよう!」


 全く自覚のないセリフを吐きやがる。


「華鈴さん。今更だが、こいつを好きにしていいな?」

「かまいませんわ。ただ今をもってクビですから」

「そんな! 華鈴お嬢様! ここをクビになったら、どうやって借金を返していけば!?」

「ギャンブルで作った借金を建て替えた恩を忘れて、よくもこんなおぞましいことに手をかして!」


 華鈴はヴァリアントのことを理解しているわけではないだろうが、まともなことではないと理解するのに、この光景は十分だ。

 肩をはずされるのを見たせいか、顔が青くなっているが、怒りが勝っているらしい。


「ちくしょう! 借金を払ってくれたわけじゃねえのに偉そうに言うんじゃねえ!」


 よくもまあそんな勝手なことを言えるものだ。


 オレはつま先で山形の膝をコツンとこづいた。


「ぎやああああ!」


 それだけで山形の膝が粉々に砕けた。


「ひざが! ひざがああ! わかった! 言う! 言うからもうやめてくれ!」

「何を言うって?」

「名前! 名前を知ってる! どうやったのかは知らねえが、果樹園拡張工事の時に、この施設を作らせたヤツの名前だあ!」

「言え!」

「オオゲツヒメだ! オオゲツヒメって呼ばれてた! 何かの呼び名なんだろうが本名は知らねえ! 今日視察に来るって言ってた!」


 オオゲツヒメと言えば、日本神話で食事をふるまうエピソードを持つ神だ。


「他に知っていることを言え!」

「知らねえ! ほんとだ! なんだかわからない栄養液と、ここでとれた果物の果汁をポッドの『家畜』に注入するくらいしかしてねえよ! 出荷先も知らねえ! 業者が全部取りにくるんだよ! 金も手渡しだ!」


 山形が顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにして泣き叫ぶ。

 これ以上の情報は得られそうにないな。


 さて……こいつの処理をどうしたものか……。


 オレが思案していると、山形が入って来た扉の方に、大きな魔力が出現した。

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