第296話 15章:赤のフォーク(10)
「これはどういうことかしら、山形さん」
出現した魔力の方を見ると、そこには大正時代の女中を思わせる服装の女性が立っていた。
歳は20代中盤、特徴と言えば穏やかな笑顔くらいだろうか。
普通の服装であれば、街ですれ違っても全く印象に残らないだろう。
しかし、その体から放たれる魔力が、彼女が人間ではないことを物語っている。
「六条家のメイドじゃあないよな?」
「うちの制服ではありませんわね」
華鈴が首を横に振った。
趣味でこの格好してるってことか?
つながり先をつかめればと思ったのだが、そう簡単ではなさそうだ。
「オオゲツヒメさんよう! 話が違うじゃねえかよう! 簡単で儲かる仕事だっていっただろう!」
オレに踏まれた山形が、涙でぐちゃぐちゃになった顔でわめいている。
こいつがオオゲツヒメか。
魔力だけで言うなら、ヒミコやぬらりひょんのようなボスクラスには及ばない。
だが、低鬼やダークヴァルキリーと比べれば圧倒的に強くはある。
ただの連絡係なのか、それとも特殊能力持ちか。
いずれにせよ油断をする理由はない。
「あら、簡単だし儲かったでしょう? 危険ではないと言った覚えもありませんし」
「ちくしょう! 騙したな!」
「だから騙してはいないと言っているでしょう? やかましい人ですね」
穏やかな笑顔のままめんどくさそうな声を出すという、器用なマネをしたオオゲツヒメは、左の掌を山形に向けた。
攻撃が来る!
そう判断するよりも先に体が動いた。
オレは大きく後ろに飛び退きつつ華鈴さんを抱きかかえ、縦長の通路の端まで下がる。
同時に山形を結界で保護する。
オオゲツヒメの腕が、文字通り山形へと伸びた。
ただ伸びただけではない。
手首から先が巨大な口の形に変化し、山形の頭部へと迫る。
だが多少の魔法や攻撃程度なら、結界が問題無く弾き――
――バクンッ。
オオゲツヒメの手が結界を食い破り、そのまま山形の頭を丸呑みにした。
ばかな!
障壁を破るにしても、もっと手応えがあっても良いはずだ。
「なんて不健康な体ですか。不味すぎです。でも、魔力は極上でしたよ」
オオゲツヒメがオレに向かってにこりと笑う。
「これはもう、トリックとかではないですわよね……」
驚く華鈴さんはいったん無視し、頭を巡らせる。
障壁を魔力ごと喰われた?
オレの障壁を喰った分、魔力が増大したように見える。
魔法ならなんでも喰えるとは思えないが、少々めんどうだ。
喰えるのは手だけなのか。
一度に喰える最大容量に限界はあるのか。
魔力を与えまくれば、許容量オーバーにできるのか。
異世界でこのタイプとも何度か戦ったことはあるが、対処方法が個体の特徴によって違うんだよな。
少し探ってみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます