第293話 15章:赤のフォーク(7)

 オレは人の気配が集まる場所の真上あたりに来ていた。

 工場の予備電源確保用の発電室だ。

 ここに来るまでの間、工場や出荷用の果物を保管している倉庫を通っている。

 いくつかの扉には鍵がかかっていて、それらを華鈴に開けてもらった。


「こんなところに何の用ですの?」

「この下には誰もいないんだな?」

「下ですの? この下はもう地面しかありませんわ」


 嘘をついている感じではない。

 だとすると、華鈴も知らない何かがこの下にはある。


「何もなかったら謝る」


 オレはおもむろにコンクリートの床に拳を突き立てた。


 ――ごばぁっ!


 派手な音を立てて、分厚いコンクリートが砕け、真下にぽっかりと穴が空いた。


「キャアアア!」


 悲鳴をあげながら落ちていく華鈴さんを抱きかかえ、オレは音も無く着地した。

 10メートルくらいは落ちただろうか。

 かなり深く掘られている。


 オレはそっと華鈴さんを下ろした。


「なんですの今の? あそこから落ちて……え……? いったいなんのトリックですの?」


 足をがくがくと震わせる華鈴さんを支えつつ、周囲を見回す。


 日本の『組織』に潜入したときに見たようなポッドが並んでいる。

 あの時と違うのは、中にいるのが全て人間だということだ。


 年齢は生まれたばかりの赤子から10代中盤までといったところか。

 そこそこの肉付きのわりに、筋肉が少ない。

 体の形状もどこか歪んだものが多い。

 もしかして、このポッドで培養されているのか……?


 ポッドには日付の横に『出荷日』と書かれたプレートが貼り付けられている。

 そのプレートには、『S』『J』など謎のアルファベットも書かれている。


 おいおい、まさかこれ……。


「この施設に心当たりは?」

「あるわけありませんわ。なんですのこれ……」


 華鈴さんの顔は真っ青だ。


「ここの工場を作った時に図面を見たか?」

「確認しましたわ。でも、こんな施設はなかったはず……」


 なんとか自分の足で立てるようになった華鈴さんだが、まだ足下がおぼつかない。

 彼女がついてこられるペースでゆっくり進む。


 一本の通路の左右に並ぶポッドはおよそ100。

 オレが感じた気配はこれか。


 さらに進むと、ポッド内にいる人の年齢層が少し上がった。

 ほぼ全員20代前半といったところか。


「っ……」


 中を見た華鈴さんが呻いた。


 それらはいずれも女性で……妊婦だったのだ。

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