第287話 15章:赤のフォーク(1)
■ 15章 赤のフォーク ■
なにかと要人の来客の多い白鳥家であるが、今夜はいつもとは比べものにならない数の人が訪れていた。
なにやらパーティーがあるらしい。
と、他人事のように言ってみたが、オレと双葉も招待されている。
そんなわけで、オレ達は白鳥家の敷地にある迎賓館に来ていた。
一人一部屋ずつの控え室をあてがわれ、メイド達に着替えさせられている。
オレに用意されたのは紺のスーツだ。
スーツの善し悪しなどさっぱりわからないオレにも、なんだかとても上等だと感じられるほどの逸品だ。
そこへノックとともに、メイドに連れられた由依と双葉が入ってきた。
二人ともイブニングドレスでの正装だ。
由依は背中と胸元の大きく開いた赤いドレス。もちろん下には黒タイツ。
双葉は腰に大きめのリボンがついたピンクのドレスだ。ちょっと80年代のアイドルみたいである。
「二人ともよく似合ってる」
「ありがとう」
「ちょっと子供っぽいと思ったけど、お兄ちゃんがそう言うならいいかなあ」
オレの素直な感想に、二人は笑顔で応えた。
「ごめんね巻き込んじゃって。イヤなら今からでも……」
顔を曇らせた由依の頭に、オレは軽く手を置いた。
「いいって言ったろ? 親父さんの狙いは透けてるけどな」
パーティの出席者には、ヴァリアントについて知っている者もいるだろう。
そこでオレと白鳥家との繋がりをアピールしておきたいのだ。
宣伝の道具にされるのは気に入らないが、これは由依に変な虫がつかないようにするためでもある。
これまでの由依は、いずれ神器の副作用で死ぬか、ヴァリアントに食い殺されるかだと思われていた。
しかしオレが現れたことで状況が変わり、社交界における彼女の価値は大きく上がったという。
オレの知らないところで、由依は上流階級特有の苦労をしているらしい。
もちろん本人はそんなことを言ったりしない。
メイドの早乙女さんに聞いたのだ。
ならば、オレもできることをしたい。
「むう……」
双葉は何かを察して、唇を尖らせていた。
パーティー会場は、ホテルのホールのような建物だ。
ホールの端や中央には豪華な料理が並ぶ立食形式である。
オレ達がホールに入ると、入口当たりにいたおじさま達の視線がこちらに向いた。
それにつられるようにして、ホールにいた二百人ほどの視線が集まってくる。
全員が各業界のお偉いさんであったり有名人だったりなのだろう。
テレビで見たことのある政治家や実業家もいる。
「やあ由依さん、一段と美しくなられた」
最初に話しかけてきたのは、30歳くらいの男性だった。
紫のスーツに身を包み、ピンと伸びた背筋と、自信に満ちた表情が印象的な男性だ。
「お久しぶりです。梶谷様」
それを迎える由依は、氷のような瞳を梶谷に向けつつ、オレの腕に手をそえてきた。
「ご活躍らしいですね」
「梶谷様も事業が好調なようで何よりです」
薄い笑顔を浮かべながら応対する由依といくつか言葉を交わした後、梶谷はうやうやしく礼をすると去って行った。
余裕の表情を見せてはいたものの、撃沈ということろだろう。
由依とのパイプを作りたかったのか、仲を深めたかったのかは知らないが、とてもそんな雰囲気ではないと悟ったようだ。
その様子をうかがっていた周囲の大人達は、由依へ近づくのをためらっているようだ。
さすがに恐れをなしたということはないだろうが、タイミングを測っていることに違いはない。
しかしそんな中、一人の美少女がまっすぐこちらに歩いてきた。
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