第288話 15章:赤のフォーク(2)
挑戦的な瞳をまっすぐ由依に向けながら近づいてきた美少女は、深い紺のドレスに身を包んでいた。
歳はオレや由依と同じくらいだろうか。
目の上でまっすぐ切りそろえられた黒髪の下で、きりりと少し太めの眉がつりあがっている。
つややかな髪は腰の下まで伸びており、横髪はドリルを思わせる縦ロール。
ドレスにはよく見ると、紺のバラがイヤミにならない程度にあしらわれている。
胸は……双葉よりはちょっとある程度だ。
「久しぶりですわね。白鳥由依」
控えめな胸をぐいっと張った美少女は、真っ正面から由依を睨んだ。
おお……お嬢様言葉だ。
本当に使ってる人を初めて見たぞ。
「お元気そうで何よりです。六条さん」
一方の由依は、相変わらず凍てつく瞳をしてはいるものの、纏う空気を僅かに緩めていた。
旧知の仲なのだろうか。
「そちらが難波カズさんと、双葉さんですの?」
美少女は紹介しろとばかりにこちらへ視線を向けてくる。
といっても由依にそうしたような無遠慮なものではなく、節度ある視線と態度だ。
「ええ、私の大切な人達です。こちらは六条華鈴さん。六条グループ代表のご令嬢です」
由依はオレ達に、形式的な紹介をした。
「華鈴とお呼びください」
華鈴さんはスカートをつまみ、うやうやしく礼をした。
名前呼びに関しては、距離が近いというより、名字だと親族との区別がつかないからだろう。
六条グループといえば、日本屈指の企業グループだ。
白鳥には及ばないものの、一般人からすると雲の上の存在であることに変わりはない。
「それにしても、由依さんが『大切な人』とおっしゃるなんて……どんな方なのかしら? 梶浦様には随分つれなかったようですけど」
華鈴さんがじっとオレの目を見つめてくる。
「もっとも、貴女が白鳥家の人間として、鉄岩様からの扱いが良くなったからといって、急にすり寄ってくるような男と比べるのも失礼でしょうけど」
面白くなさそうに「ふんっ」と小さく鼻を鳴らす華鈴さんに対し、由依は肩をすくめて見せた。
胸元の大きく開いた由依のドレスの下で、夢のつまった2つの膨らみがたわわに揺れる。
そのボリュームを見た華鈴さんは一瞬目元をピクつかせたが、構わず続ける。
「そうそう。先日の全国模試、トップおめでとうございます」
これはオレに対する言葉だ。
オレが1位、由依が2位だった。
そういえば、3位に華鈴さんの名前があったな。同い年なのか。
それにしてもこの人、話題がころころ変わるなあ。
大人な話がそこかしこから聞こえてくる中、急に高校生らしい話題だ。
「ありがとうございます」
どう反応してよいかわからず、とりあえず礼を言っておく。
「今度こそ勝ったと思いましたのに、まさか順位が下がるだなんて! 結局、貴女にも負けましたし」
由依に対するライバル心むき出した。
「前回2位で、今回3位だったんですね。すごいじゃないですか!」
由依が誰かにこういうおちょくり方をするのはとても珍しい。
「イヤミですの!?」
「今回はたまたま運が良かっただけです。次は華鈴さんが勝ちますよ」
「かと思いきや急に謙虚ですわ!」
振り回されまくる華鈴さんである。
「面白い人だな」
「でしょ? 華鈴さんがいなければ、こんなパーティー来ないよ」
「う……何をおっしゃって……はっ!? 面白いなんて失礼じゃありませんこと!?」
華鈴さんは真っ赤になって照れている。
この人、由依のこと好きすぎでは?
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