第271話 14章:ヴァリアントが見ている(3)
自己紹介を終えると、オレと由依に世話役の生徒があてがわれた。
オレの担当は赤崎健吾(あかさきけんご)。
そこそこがっしりした体格だが、この学園にしては珍しく、ややぶっきらぼうなところが子供っぽくもあり、年頃と言えなくもないといったところだ。
「困ったことがあったら何でも言えよ」
つんツン頭がトレードマークの赤崎は、オレから少し目線をはずしつつ、カバンから取り出したイチゴ牛乳を放り投げてきた。
「サンキュー」
けっこうイイヤツなのかもしれない。
イチゴ牛乳はぬるいが。
「もう、健吾! ちょっとは愛想よくしなさいよね。ごめんなさい難波君。コイツ、人見知りなだけだから許してやってください」
由依の担当となる青井乙美(あおいいつみ)さんは優しい笑顔が魅力的な女子だった。
赤崎に対してだけは扱いが雑なようだが、気安い関係なのだろう。
クラスの席順は、赤崎の後ろに青井、そして赤崎のとなりにオレ、青井のとなりに由依だ。
世話役とかためておこうという学校側の配慮だろう。
オレと由依の自己紹介やガイダンスがあったため、朝のホームルーム後、すぐに1時間目の授業が始まった。
どうやらこの学校、教師は生徒に対して丁寧語で話すらしい。
黄島が特別ということではないようだ。
なんと、教師が教室に入って来た際の挨拶も「ごきげんよう」である。
二度目の同じ感想だがあえて言いたい。
本当にここは日本か?
授業はうちの高校よりもかなり進んでいた。
完全エスカレーター制の中高一貫教育とは聞いていたが、どうやら中三の時点で高一のカリキュラムの大半が終わるらしい。
最初の授業は世界史だった。
ある程度暗記ですむ科目については、既に教科書を全て覚えている。
由依も半年先の分まで予習は終わっているらしい。
なんでも、先のことを知っていれば授業の内容意図が深いところまでわかるし、テスト勉強も不要になるとのことだ。
意識の高さに驚かされる。
オレの場合は魔法で記憶できてしまうので、一気に終わらせてしまっただけだ。
そんな中、船をこぎはじめた赤崎の背中を青井がペンでつっついて起こすような微笑ましい一幕も見られた。
なお、クラスで居眠りをしていたのは赤崎だけである。
由依もそれをマネしてオレの背中をつついてきたりもした。
オレは寝てないぞ?
授業内容は思っていたよりも高度だった。
今まで受けた授業は、教科書に書いてある歴史の流れを説明し、テストに出るような単語を覚えるだけだった。
しかし、白樹高校では自分がその日、その場にいたかのような語り口での授業だった。
生徒を指名することもあったが、出来事の名前や年号を答えさせることはなく、意見を求めるのだ。
世の中にはこういう学校もあるんだな。
「授業進度にかなり差があるとのことでしたが、聞いていた通り、二人とも優秀ですね」
教員が穏やかな笑顔でオレと由依を褒めたところで、1時間目の授業は終了となった。
「ごきげんよう、難波君。さっきのギリシャ神話の話だけど、深い考察お見事でした。どこで学んだのか教えてもらえませんか?」
そう声をかけてきたのは、斜め前の女子だった。
休み時間に、授業内容の議論をするの!?
てっきり休み時間は転校生に行われるような、騒がしい囲み質問会になるかと思いきやこれである。
もちろん、オレ達に興味を持った生徒は集まってきているのだが、みな落ち着いた雰囲気だ。
ここならオレも、おっさ……大人っぽいという評価をうけずにすむ気がするぞ。
本当にここは日本か?(本日3度目)
そんなこんなで、無事に放課後。
なんて居心地の良い学校なんだ。
オレもうここの子になるわ。
みんな下手な大人より大人なんだもん。
言葉の暴力が飛び交うかつての職場より、よっぽど人間が生活するのに適した環境だ。
「部活見学が交換留学のカリキュラムに入ってるらしいんだけど、どこ行くか決まったか?」
そう言ってきたのは赤崎だ。
「いや、まだだけど」
「なら俺と一緒に来るか?」
断る理由はないか……。
ヴァリアントの件を調査はしたいが、校内を見て回ることも必要だ。
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