第272話 14章:ヴァリアントが見ている(4)

 由依もまた、部活見学について青井から誘いを受けていた。

 どうやら赤崎と青井は同じバレー部所属らしい。


 体育館へと続く廊下は、部活に向かう生徒で混み合っているが、皆一様に優雅な足取りだ。


「部活まで同じなんて、二人は仲が良いんだな」

「腐れ縁だよ」


 赤崎は無表情のままそう答えた。


「もしかして幼なじみなのか?」

「幼稚園に入る前から近所で、ずっと同じ学校という意味ではそうだな」

「それで幼なじみじゃなかったら何なんだ」

「二人は幼なじみなんですね。私達もなんですよ」


 由依が嬉しそうに赤崎と青井を見比べている。


「白鳥さんたちも? 幼なじみチームですね」


 青井は嬉しそうに由依の手をとった。

 由依は少し驚いたようだが、優しくその手を握り返している。

 学校でこんな風に年頃の女子っぽいことをする由依は、始めて見たかもしれない。

 それだけでも、交換留学に来てよかったと思える。


「二人はバレーボールを始めて長いの?」


 由依達は楽しそうに会話を続けている。


「小学校のクラブ活動からですね。あの時の健悟は、『乙美ちゃんと同じクラブに入る~』ってかわいかったなあ」

「おい、そんな昔のこといいだろ」


 自分の過去をよく知ってる幼なじみってのは、良くもあり、気恥ずかしくもあるよな。

 わかるぞ。


「二人はつきあってるんですか?」


 おい由依! ぶっこみすぎだろ!

 距離感! 距離感気をつけて!


「そういうんじゃないんですよね。まわりからは赤青夫婦なんてからかわれちゃって、他の彼氏もできませんし」

「まんざらでもないようですけど?」

「そりゃあ、長い間幼なじみをやっていれば、良いところも悪いところも見えちゃってますからね。もう家族みたいなものですよ。デキの悪い弟というところですね」

「俺の方が2日誕生日が早いんだが」

「ほらね」


 青井がいたずらっぽく微笑む。


「たしかにそうかもしれませんね」


 女子二人が笑い合うのを、赤崎は口をへの字にして眺めている。


 思春期を経ると関係が微妙になっていく幼なじみは多いが、二人は仲が良さそうで何よりだ。


「私達も二人みたいに、ずっと仲良くしてたいね」


 由依は、女子の青井が思わず「わぁ……」と感嘆の声を漏らすほどの笑顔をオレに向けてきた。


「そうだな」


 否定するのもおかしいので、頷いておく。


「すげえなあんた。付き合ってるわけじゃないんだろ?」

「まあな」

「健悟も見習ったっていいんだよ?」


 青井が赤崎の肩をつついている。


「どういう意味だよ」

「さあねえ~」


 こりゃあくっついたとしても尻に敷かれるだろうなあ。


「いいなあこの二人。すっごく応援したくなっちゃう」


 由依は二人のことをいたく気に入ったらしい。

 そういうことを本人達の前で言うと、赤崎は意地をはってしまいそうだが。

 なにはともあれ、楽しそうで何よりだ。


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