第269話 14章:ヴァリアントが見ている(1)
■ 14章 ヴァリアントが見ている ■
2学期が始まって一ヶ月。
秋めいた日も増えてきたある日の夜。
いつもは由依や双葉と三人でとる夕食に、めずらしく鉄岩が同席していた。
「由依と難波君、国内ではあるのだが交換留学に興味はないかい?」
鉄岩がおもむろにそんなことを言った。
何か頼み事があるとは思っていたが、意外な提案だ。
鉄岩は続ける。
「交換留学先は白鳥家が出資している学園の一つでね。テストケースでやってみようという話になっているんだ。期間は2週間。通う生徒の家柄も学力も高い。良い刺激になると思うがどうだね?」
「なんでオレ達なんです?」
「どうせなら優秀な生徒を交換させたいと思ってね。娘にも色々な経験をさせたいし、キミと一緒なら安心だしね」
もっともらしいことを言ってはいるが、それだけでもないはずだ。
「真意は?」
「何のことかな?」
最初からとぼけられるとは思っていないのだろう。
オレの質問も織り込み済みという表情だ。
「オレと由依が交換留学に行くことで、何か得があるのでしょう? もしくはヴァリアントがらみか」
「さすがに察するね。後者だよ。交換留学先の高校で、どうもヴァリアントの仕業と思わしき事案があった」
「そんなことがわかるんですね」
ヴァリアントに喰われた者に関する記憶は人々から消えていく。
それだけに、学校などの閉じた空間での発見は難しいと思っていたが。
「もちろん確定した情報を得ることは難しいけどね。組織の関わる学校は、いくつかの状況が重なった際、それがヴァリアントによるものかもしれないと警報が入って来るようになっているのさ。我々は『ヴァリアント評価』と呼んでいるけどね」
「つまり、交換留学中に調査をしろと?」
「いやあ、学内にはちゃんと組織の人間も配置してるからね。キミ達はあくまで学業のついでに調査してくれればいい。どうだい?」
テストケースと言っていたあたり、オレ達に調査をさせたいというのが本音だろう。
わざわざ交換留学のシステムを急造したとすら思える。
交換留学先の高校は、ここからさほど遠くない場所にある。
由依達の生活圏内で人を喰うヴァリアントは滅ぼしておいた方よいだろうし、ここまで聞いて断るのも寝覚めが悪くはある。
あとは由依が興味をもっているかだが……。
由依は父親の前だからか、すました顔でスープを飲んでいる。
だが幼なじみのオレにはわかる。
これは興味津々という顔だ。
「わかりました。引き受けましょう」
「おお、行ってくれるか! ではさっそく手続きをさせる。交換留学は今日からだ。必要なものは直接留学先に届けさせるから、直接向かってくれたまえ」
「「今日!?」」
えらく急な話だが、ヴァリアント案件であれば少しでも早い方が良いというのは当然だろう。
関係者の記憶がどんどん薄れていくから。
そうしてオレと由依は、私立白樹(しろき)学園に2週間通うことになったのだった。
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