第267話 【外伝短編】早乙女さんはメイド様(中編)
「完璧な掃除……。これを二人で……由依様?」
ぴかぴかになっている洋館内に驚いた早乙女さんだったが、すぐ由依の様子がおかしいことに気がついた。
「ふにゃあ……はっ? 早乙女? んんっ。ちょっと掃除をさせてもらったわ」
由依は咳払いをしつつ、姿勢を正した。
まだ快感が残っているのか、脚をもじもじさせているが。
「お仕事を奪ってしまうことになって、プライドを傷つけていたらすみません。ただ、どうしても早乙女さんに休みをとって頂きたくて」
早乙女さんの今日のノルマが、この洋館の清掃であることは調べが付いていた。
「……善意の押し売りをしないところには好感が持てますが、そういったことはして頂かなくて結構です」
ぴしゃりと言われてしまった。
それを見た由依が少しだけ悲しそうな表情を見せたが、すぐに白鳥家の顔に変わった。
「お父様から許可は得ています。私とカズが掃除をすませれば、早乙女に今日一日休暇をやってもよいと」
「しかし……休暇など頂いても……」
「やることがないとでも言うのでしょう? 小さな頃から仕えてくれたあなたをそうしてしまったのは、私にも責任があるわね……」
「めっそうもございません」
「じゃあ今日一日、私とカズにつきあって。これは命令よ。それなら良いでしょう?」
「承知しました」
早乙女さんはいつもの無表情のまま礼をした。
こりゃあ手強そうだ。
◇ ◆ ◇
寝間着以外には私服を持っていないという早乙女さんに、由依が服をかすということで待つことしばし。
由依の部屋から出て来た早乙女さんは、体にフィットする赤いTシャツに、タイトなスカートだった。
モデルのようにすらりと背の高い早乙女さんが着ると、スカートは超ミニに、Tシャツの下からはおへそが見えてしまっている。
「私の服ではサイズが合わなくて……これならいいかなって」
由依は満足げだが、これは街でかなり注目を集めそうだ。
「胸がぶかぶかです……」
早乙女さんは別の意味で不満そうではあるが。
なお、由依もメイド服から私服に着替えている。
早乙女さんを連れて街へ繰り出すと、案の定注目を集めまくった。
由依と一緒に歩くとこうなるのはいつものことだが、上背があり、セクシーな格好をしている早乙女さんがいるとなおさらだ。
行き先は由依が決めているらしく、オレと早乙女さんは黙ってついていく。
「さあ、ついたわ」
由依が立ち止まったのは、街にあるボウリング場の前だった。
「ここは……?」
駐車場に立つピンを真顔で見上げる早乙女さん。
もしかして、ボウリングを知らないのか?
「ボウリングという大衆娯楽を楽しむ場所よ
大衆娯楽て。
由依は得意げに解説を始めた。
「『あでやかリンコさん』の相性で親しまれていたプロボウラーなどが有名ね。一時期のブームほどではないけれど、若者のレジャーとしてはまだまだ元気があるものよ」
その人が活躍したのって、オレ達が生まれる前では……?
さてはこいつ、急いで仕入れたにわか知識だな?
「なあ由依、ボウリングはやったことあるのか?」
「う……ないよ……。先週、クラスのコ達がボウリングに行くって言ってたから、私も行ってみたいなって……」
やっぱり。
「だったら、そんなに気張らなくても大丈夫だ。のんびり楽しめばな」
「買い出しでしか屋敷の外に出ない早乙女がいるんだよ。せっかくだから楽しんでほしいじゃない」
「由依様……」
さすがの早乙女さんも、由依の言葉には少し驚いたらしい。
僅かにだが、目を見開いた。
「そういうカズはやったことあるの?」
「何回かは……」
未来でだが。
「裏切り者!」
「ええ!?」
涙目になるほど……?
「まあまあ、やり方を教えるからさ」
そうは言ったものの、このあとが少し大変だった。
なんせ二人ともミニスカートなのだ。
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