第262話 13章:コンプリートブルー(29)
一度目の人生でだが、とある声優情報誌で冷泉さんのインタビュー記事を見たことがある。
『声優であることが私の人生です。病気で10歳まで生きられないはずだった私にとって今はボーナスステージなんです。なかったはずの人生の全てを捧げることができるお仕事に巡りあえたことに感謝したいと思います』
それはあまりに重たい言葉だったので、深く印象に残っている。
だからこそ、陽山さんが体で仕事を取ってきていると知って、悩んだだろう。
自分が命をかけている仕事を穢された気がしたかもしれない。
よりにもよって、ライバルだと思っている陽山さんにだ。
「ごめんね、陽山さん……」
冷泉さんのその言葉は、陽山さんを疑ってしまったことに対してか、自分のためにひどいことをさせてしまったことに対してか。
もしくは、すでにいない彼女との決別に対してか。
その瞳に強い意志の光を灯した冷泉さんは、きっぱりと言う。
「ニセモノに代わりが務まるほど、陽山詩織は浅くない!」
「人間が自力で催眠を解いただと!?」
弁財天が驚くのも無理はない。
冷泉さんには、天性の魔法の才能があったのだろう。
だが、それだけで一度かかった催眠を解けるほど、弁財天のそれは甘くなかった。
冷泉さんのあまりにも強い意志と、陽山さんへの想いの結果だ。
「操るのが難しいなら、私の胃の中で陽山詩織と一つになるがいい!」
弁財天が冷泉さんに襲いかかる。
「双葉!」
オレはそう叫ぶだけでよかった。
ラブホの屋上で待機していた双葉達に、これまでの状況を魔法で中継していた。
こういった状況の際は、双葉に神域絶界を発動できるよう、構えておく連携訓練は実施済み。
しっかりそれを実践してくれていたようだ。
双葉の神域絶界は、ちょうど冷泉さんだけを範囲外とし、オレ、ヒミコ、弁財天を閉じ込めた。
ナイスだ双葉!
オレはヒミコに向かって剣を振る。
壁など無いかのようにそれらを切り裂きながらヒミコに迫る斬撃を、空間から現れた鏡が全て受け止めた。
空中に浮いた鏡は、鉄をもやすやすと切り裂く斬撃のエネルギーを全て打ち消している。
長野でも思ったが、なんだあの鏡! 便利すぎだろ!
ヒミコは鏡で斬撃を防御をしつつ、手に集中させた魔力をこちらに向かって放ってくる。
オレはそれを掌で握りつぶした。
防がれることは想定内とばかりに、ヒミコは胸の前でこちらに向けた両手から、衝撃波を放った。
――ドンゥッ! ドンゥッ! ドンゥッ!!
連続して放たれる衝撃波を、オレは正面から打ち消していく。
その余波で、壁が崩壊するが、神域絶界内なので気にする必要はない。
「其方と戦うのは本意ではない。引いてはくれぬか?」
衝撃波を出しながら、ヒミコが表情を変えずに言う。
「攻撃してきておいてよく言うぜ」
「これくらいは其方にとって挨拶みたいなものであろう? それに、こうしなければ、今頃弁財天はやられておっただろうしな」
「バカな……こんなに強い人間がいるのか!?」
驚愕する弁財天だが、こちらに気を取られていていいのか?
「悪いが弁財天を逃がすつもりはない。冷泉さんが悲しむんでね」
オレがそう言うと、天井を突き破った由依が、弁財天の真上に降ってきた。
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