第234話 13章:コンプリートブルー(1)

  ■ 13章 コンプリートブルー ■



 長野での一件以来、警戒を続けてはいたのだが、特別何も起こることなく時は過ぎていった。


 由依達との合宿も解除だ。

 オレと双葉はこのまま白鳥家にお世話になることになったが、美海はそうもいかない。

 ちなみにオレもタダで泊めてもらうつもりはなく、魔法で家の手伝いをしている。

 メイド達と仲良くなっていくオレに少し不満げな由依だったが、「一緒に住めるんだし……ぶつぶつ……」と何やら自分を抑えているようだ。


 美海には、危険が迫った時に通知が来るよう、小さな魔力を埋め込ませてもらった。

 長野に行く前、クラスメート達につけたのと同じものだ。

 強力な結界などには阻まれてしまうが、ないよりずっと良いだろう。


 美海は「危機的状況……ダメですそんな……カズくん……」などと、謎の妄想を繰り広げていたが、その程度では誤発動しないようで安心した。


 ヒミコの行方は追っているものの、見つかる気配はなかった。

 策略を巡らせるタイプの長だ。そりゃあそうだろう。

 変わったことと言えば、ダークヴァルキリーが減り、代わりに低鬼のが増えたくらいだろうか。

 ヴァリアント側に何か動きがあったのかもしれないが、組織も掴めていないようだ。




 そんな調査を進めつつも、夏休みは残すところあと数日。

 オレと由依は、食材の買い出しのため、近くの大型スーパーに来ていた。


 食材など白鳥家にいくらでもあるのだが、由依が一緒に買いに出たがったのだ。

 それも、わざわざ双葉をまいてきたらしい。


 由依は楽しそうに鼻歌を歌いながら、スーパーのカートを押している。

 夕食の食材を買うことの何がそんなに楽しいのか。


「今日は何を作るんだ?」

「ケサケイットと、チェットブラーと……うーん、何か食べたいものある?」

「袈裟……? 精進料理か?」

「北欧のスープとミートボールよ。最近覚えたものだから、家庭の味とはいかないけれど……」

「北欧料理か。由依のルーツだもんな。楽しみにしてる」

「うん!」

「そうなると、オレも何か作りたいところだな」

「教えてあげるから一緒に作ろうよ」

「おお、よろしく頼むぜ先生」

「それじゃあ生徒君、食材を選んでもらおうか」


 由依がオレの手を引き、まずは野菜売り場へと向かう。


 これは……ちょっと楽しいかもしれん。

 周囲の奥様方のほっこりした視線や、独身サラリーマンらしき人からの恨みがましい視線は痛くもあるが。


「えへへ……新婚さんみたいだね」


 口に出す前から真っ赤になるくらいならひっこめればいいのに。

 よほど言いたかったのだろう。


「まだ高校生だぞ。せいぜいカップルだろ」

「カップルに見えるかな?」


 誘導尋問だこれ!


「由依のかわいさとオレが釣り合ってなくて、そうは見えないかもな」

「か、かわ……。そうやってすぐ不意打ちするんだから……」


 自虐のつもりだったのだが、思い返してみるとえらい恥ずかしいことを言った気がする。


『人違――。ちょっと、やめ――――。なん――――れ』

『そん――言わ――』


 照れて視線を合わせたり逸らせたりするオレの耳に、男女の言い争う声が届いた。


 いつもなら由依を優先して無視するところだ。

 しかしなぜか、オレの本能が「行くべきだ」と告げている。


「由依すまん、ちょっと買い物を続けててくれ」

「え? ちょっとカズ?」


 オレは由依を残し、声のした方……スーパーの駐車場へと向かった。


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