第233話 【外伝短編】深夜の相談会(後編)

 黒タイツは下ろされたものの、スカートを履いているので、パンツが見えたりはしない。

 しないのだが……ものすごくエロい。

 素足よりエロく感じるのはなぜなんだろうな。


「ええと……?」


 なぜこんなことを?


「西洋からパンツという文化が入ってきた当時、男性達は着物からちらりと見えたパンツにがっかりしたそうなの」


 急に謎の歴史を語りだしたぞ。


「そう……なんだ?」

「つまり、パンツで恥ずかしがっているようでは、本能にうったえかけられていない、まだまだダメということなの」


 どういう理屈!?


 由依はスカートの裾をゆっくり持ち上げ始めた。

 言っていることはよくわからんが、すごい覚悟だ。

 顔は耳まで真っ赤で、手もプルプル震え、おまけにちょっと涙目である。


 パンツの下半分が見えたあたりで、由依の手が止まった。

 どうしよう。

 止めるべきだろうか?

 彼女の覚悟を無下にするのは気が引けるものの、引っ込みがつかなくなっているだけかもしれない。

 声だけでもかけてやるべきか。


「なんだかわからんが、無理しなくても……」


 オレの理性も危ないし。


「だ、大丈夫だよ! パンツだから恥ずかしくないもん!」

「いや、そこは恥ずかしがっていいんだが!?」

「え!? なんで!?」

「マンガでもみんな恥ずかしがってただろ?」

「みんなじゃなかったよ。攻めるコの方が進んでるのかなって」

「『進んでる』の意味はわからんが……。歴史はともかく、今は恥ずかしがっていいと思うぞ。感情の基準なんて、育った文化に依存するんだしな」


 裸族は裸を恥ずかしがらないが、少なくともオレは恥ずかしい。

 そういうものだろう。

 たぶん。


「それはそうよね……。ちょっと考え込みすぎちゃったな」


 どう考え込んだらそんな結論になるのかはともかく。

 オレの一言で冷静になったらしい由依は、ちらりと姿見で自分の姿を確認した。

 いかに恥ずかしい格好をしているのか自覚したのだろう。


「ひゃっひょう!?」


 奇妙な悲鳴をあげた由依はスカートから手を離し、こちらに背を向けようとした。

 しかし、膝まで下げていた黒タイツにひっかかり、体を横に回転させながらベッドにダイブするハメに。

 パンツ丸出しでこちらにおしりを付き出す格好になった。


「ええと……」


 助けた方がいいのか?

 それとも、そっと立ち去った方がいいのか?


「なんというか……ラッキースケベ的な意味で、十分ラブコメの再現をできてると思うぞ……?」


 フォローになったかなあ、これ。


 由依はおしりをプルプル震わせたまま、枕を引き寄せると、そのまま顔を埋めてしまった。


 これはそっと出ていくのが正解かもな。


「今日は部屋に戻るぞ? 相談の続きがあるならまたこんどな」

「…………うん」


 羞恥で消え入りそうな由依の声を聞き、オレはドアを開けた。


「それと、後ろ丸見えだから、誰かに見られないようにな」


 そう言って扉を閉めると、中から声にならない悲鳴が聞こえたのだった。


 なお、翌日の由依は珍しくパンツルックだったことを付け加えておく。

 そのままうっかり神器を発動させ、下半身が黒タイツだけになったことは、また別の話である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る