第232話 【外伝短編】深夜の相談会(前編)

【前書き】

12章までお読み頂き、ありがとうございます。

今日の更新はちょっと箸休めの短編です。

カズが白鳥家に住むようになってから、とある夜のできごとです。


前後編のあと、13章が始まりますのでお楽しみに!


【本文】

 オレは由依の部屋のドアを控えめにノックした。

 なにやらオレに相談があるらしい。


「どうぞ」


 珍しく緊張した声に導かれ、オレは中へと入る。

 由依の部屋は、多くの一般人が想像する『お嬢様の部屋』のイメージ通りの内装だ。

 天蓋付きベッドこそないが、白を基調としたセンスの良い家具が並んでいる。

 しかし、よく見ると余計なものは一切置かれておらず、逆に生活感というか、個性が無いことに気付く。


 それはそれとして――。


「もう寝る時間なのに、なぜ制服?」

「女子高生っぽい相談だから、このほうがいいかなって」


 オレにイスを勧めた由依は、ベッドに腰掛け、なにやらもじもじとスカートの裾をつまんでは離すのを繰り返している。

 学校の連中が見たら、大量のフラッシュが焚かれるようなレアな仕草である。


 相談というのが、オレに答えられる内容だといいんだが。

 女子高生っぽい相談と言われても、想像もつかない。

 花火弾から生まれる花火の精を育てる携帯ゲーム、『たまやっち』のことかかなあ。

 発売はたしか去年だが、ものすごく流行ったんだよな。

 一過性の流行り物で終わると思いきや、20年以上現役で居続けるなかなかのコンテンツである。


 ……いくら女子高生に人気とは言っても、違うだろうな。


「あのね、私、みんなから『話しやすくなった』って最近言われるの」

「いいことじゃないか」


 以前は近寄りがたい孤高の美人って感じだったからな。

 今もその雰囲気は多分にあるが、少なくともクラスには馴染み始めているように見える。


「それでね、女の子達が……その……エッチな話題をすることが多いの」

「お、おう……」

「でも……私……そういうの全然わかってないみたいで……」


 女子達と何かあったのだろう。

 由依は恥ずかしがりながらしょんぼり肩を落とすという、器用なまねをしている。


「一般的な性教育でうけた知識はちゃんとあるんだよ!? キャベツ畑から生まれて来るのは、自爆が得意な緑色の宇宙人だけって知ってるからね?」

「別にアホのコだとかは思ってないから」


 変な例えを出されたことで、ちょっとアホっぽさが出た気がするけど。


「でもね、どうしたら男の子が喜んでくれるかがわからないの。その……子供ができちゃうようなことはまだ早いと思うし……でも……ええと……」

「男子にモテたいのか? 少なくとも校内ではトップだと思うが」

「違うよ! カズ以外の男子にモテたって何の意味もないから! そんなの、カカシに好かれてるようなもんだよ!」


 真っ赤な顔で目をぐるぐるさせながら、何気にひどいことを言う。


「タンボカカシは人気キャラだからなあ。好かれたい女子はいっぱいいそうだが」

「ニンジャマンガの話じゃなくてね?」


 オレもまた照れ隠しの軽口だったのだが、それで由依も少しだけ冷静になれたようだ。


「エッチな話って、例えば?」

「彼氏を……その気にさせる方法をお互い出し合ったり……」

「由依も出したのか」

「うん。でもね、少女マンガからの引用はダメって言われたの。あれは女子に都合よく描かれてるから、実践では逆効果だよって」

「実践て」


 話の種程度だと思っていたが、ガチのやつなのか?

 だが、冷静な奴もいたものだ。

 大抵の男子は、少女マンガに出てくるイケメンみたいなことをしろと言われても難しいからな。

 ああいうのは、『ただしイケメンに限る』というやつである。


「じゃあ、少年マンガを参考にしたらいいんじゃないかと思ったのね」


 それはそれで偏りそうだが、男子の興味を引くという意味ではアリ……なのかなあ?


「なんの少年マンガを参考にしたんだ?」

「やさぐれハッサクロード」

「またちょっと古いところをもってきたな。名作だけど」


 最近なら『マイズ』とか、長く続いてるのだと『ボーイズシー』とかじゃないのか。『お待た! 琴之助』なんかもいいな。


「主人公が超能力家族ってあたり、共通点があるじゃない?」

「あの作品、ヒロインは超能力使えなかったと思うが」

「あら? 今、ヒロインに誰を思い浮かべたのかな? んん??」


 思わず目を逸らしてしまったオレの顔を、由依がにやにやしながら覗き込んで来る。


「くっ……。それで、成果はあったのか?」

「それがあまりなかったのよね。男の子がドキッとする瞬間の勉強にはなったんだけど、わざとやるのはなんか違う気がするものばかりで……」


 由依はあざといことをわかった上でやるような性格じゃないからなあ。


「どうしたらいいかわからなくなって相談したいと?」


 オレに直接聞くのもどうかと思うが。


「違うの。それじゃあだめだってわかったから、そういうことの歴史から調べて、考察してみたのね」

「指示語が多くてわかりにくいが……んで?」

「ちょっと見ててほしいの」


 そう言って立ち上がった由依は、ゆっくり黒タイツを膝まで下ろした。

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