第231話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(25)
「わ、私はカズとお風呂入るの始めてじゃないからね! もちろん一緒に入るよ!」
「え!? 由依さん!? じゃああたしだって、妹として一緒に入るしかないよ!」
「いや、どういう理屈だよ」
なんだか最近、風呂イベント多くないか?
そういうのがお約束になっているサスペンスや時代劇枠じゃないんだぞ。
結局、露天風呂には四人で入ることになった。
さすがに狭いんじゃ……というオレの意見は、十人は入れそうな立派な露天風呂の前にあっさりかき消された。
美少女3人と混浴……。
アラフォー時代なら完全に犯罪だが、今のオレは高校生。
なんの問題もないはずなのだが、脳がついてこない。
相変わらず、未成年に手を出してはいけないという大人的倫理観と、自分の若い肉体の間で脳がパニックをおこしている。
「今日はお疲れ様、洗ってあげるね」
バニーガールスーツだけを器用に消し、体のあちこちに白いもふもふとうさ耳だけを生やした美海が、全身に泡をまとって抱きついてきた。
「おい!? それはライン越えだ!」
いくらなんでも理性が保たないんだが!?
「ライン……川?」
あ、うん。言い回しが未来のネットスラングだったな。すまん。
「じゃあ背中から」
オレの背中で柔らかくてすべすべした何かがふにょふにょと動いている。
いかん、こんなときどうすればいいのかさっぱりわからない。
由依達もいるんだぞ。
落ち着けオレ。
とりあえず心と体の一部を鎮めるために、赤スパの素振りでもしよう。
赤スパを一回、赤スパを二回……あぁ……は、破産してしまう……。
でも推しのためなら……っ!
異世界でも使っていた現実逃避の方法だ。
これが実にキクのである。
しかし、そんなことをしていても状況が好転するわけがない。
むしろいつの間にか三人に体を洗われていて、悪化……いや、むしろ好転なのか?
とりあえず考えるのをやめよう。
無心になるのだ。
気付けばオレは、両側を由依と双葉に挟まれ、温泉に浸かっていた。
さらに由依の向こう側では、変身の解けた美海がこっくりこっくり舟を漕いでいる。
温泉でリラックスして、変身がとけたのか。
がっつりヨダレを垂らしているのは、見なかったことにしておいてやろう。
「カズのえっち」
「お兄ちゃん……女の子なら誰でもいいの?」
二人がオレにジト目を向けてくる。
正直、反論のしようはない。
「惚けた顔で、スパチャヨミがどうとか言ってたけどなんのこと? 読心術の一種?」
「いや、なんのことだろうな。意識がもうろうとしていたからわからないな」
「カズが意識を……? ほんとに……?」
「そこはホントなんだが!?」
日頃の強さがあだになったか。
「そこは?」
「いやあ、月が綺麗だな」
「もう……っ。まあいいわ。せっかくの温泉だしね」
かわいくほっぺを膨らませてみせた由依は月を見上げた。
「ところでカズ。女の子に『月は綺麗ですね』ってセリフは、アイラブユーの翻訳だって知ってる?」
「そんな使い古されたネタを使ったつもりはなかったぞ」
「そんなによく見るネタだっけ?」
シュレディンガーの猫と同様、もう少ししたらやたらとフィクション作品で使われるネタになるんだけどな。
確かに、この頃はまだそれほど有名ではなかったかもしれない。
「まあ、月といえばマイクロウェーブの方がなじみがあるのは間違いないな」
「そっちの方がわからないんだけど……」
「こんどビデオ貸してやるよ」
「うん……」
由依がオレの肩に頭をことんと乗せてくる。
それを見た双葉も、反対側から頭を乗せてきた。
最初の人生から比べるとすごい状況なのだが、この二人だと不思議と心が落ち着く。
それは温泉のリラックス効果だけではないだろう。
あ……ビデオは全部、家と一緒に焼けたんだった……。
ちくしょうめ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます