第230話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(24)
ヒミコを狙ったオレの一撃は、ウカの掌に阻まれた。
ウカの掌を薄皮一枚斬ったところで止まっている。
素手で止めただと!?
確かに距離はあった。
ヒミコとの間に割り込むことは可能だっただろう。
しかし、ダイヤモンド程度なら豆腐のように斬れるだけの力を込めた一撃だったはず。
このウカというヴァリアント、動きこそ荒削りだが予想よりかなり強い。
「ほう……ウカに傷をつけるか。これは認識を改めねばならぬな」
ヒミコの一言からも、ウカへの信頼がうかがえる。
他人を信頼するようなタイプではなさそうなヒミコがだ。
「一つだけ付け加えるならば、ぬらりひょんを亡きモノとするために、ここにいる妾の部下を半分は失う覚悟をしておった。想像を遥かに超える強さであったぞ。そこな娘達も含めてな」
「あなたに褒められたところで嬉しくもなんともないわね」
そう言った由依の声は微かに震えていた。
このプレッシャーの中、軽口を叩けただけでも上出来だ。
「今日の活躍に免じて無礼は許そう。では皆の者、帰還する!」
ヒミコがそう宣言すると同時に神域絶界が解除された。
消し飛んだ山々が戻ると同時に、ヒミコは再び神域絶界を展開。
オレはその範囲から弾き出された。
展開しながら特定の対象だけを弾くだと!?
やがて、夜の山に静まり返っていた虫の音が鳴り始める。
ぬらりひょんとの戦いが始まった時点から撤退の準備をしていたということか。
あまりに速やかな撤退だ。
神域絶界ごと転移したのか、転移能力のついた神域絶界なのかは知らないが、ここで待っていても再び現れることはないだろう。
戦いにこそ勝ったが、最後までヒミコの掌の上だったと言わざるをえない。
オレを釣るためにクラスメートを襲うような連中だ。
ここで倒しておきたかったが、深追いは禁物だ。
オレはともかく、由依達の消耗が激しい。
ここでスキを晒して由依達が狙われるなんてことになれば、目も当てられない。
「オレ達も帰ろう」
「そうね」
「はぁ~疲れた」
「温泉ですか? 混浴ですか?」
美海だけが元気だが、変身でハイになっているだけだ。
変身を解けばその反動でぐったりだろう。
とはいえ、思ったよりも早く終わったので、念の為予約していた宿に泊まって帰ろうか。
せっかくの長野だしな。
◇ ◆ ◇
「ほんとに混浴じゃないか!」
「客室露天風呂だよ。この方が他人に聞かれたくない話もしやすいと思って」
由依がとってくれていた旅館の部屋は、ホテルならロイヤルスイートとよんで差し支えないものだった。
寝室、リビング合わせて30畳はあるだろうか。
他の部屋からは離れた角部屋になっており、備え付けの露天風呂でも周囲に声を聞かれる心配はない。
「とりあえずみんな先に入ってくれ。オレは後でいい」
ホコリまみれだからな。
早く洗いたいだろう。
「ええ~? カズ君も一緒に入ろうよう」
しなだれかかって来たのは美海だ。
今回の戦闘ではよほどアドレナリンが出たのか、まだ変身が解けないでいた。
おかげで宿に入る際はオレの魔法でごまかすハメになった。
オレが強制的に変身解除させることもできるが、自力で慣れてもらいたいので、とりあえず放っておいている。
「そうもいかんだろ」
「私は一緒がいいなあ~。他の2人は恥ずかしいなら、先に入ってくれればいいよぅ。私はあとでカズ君と入るから」
とんでもないことを言い出した。
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