第229話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(23)

 ぬらりひょんの拳がヒミコに触れる直前、二人の間に割り込んだウカがその一撃を両手で受け止めた。


「邪魔をするなあ!」


 そのまま魔力を高め、拳をねじこもうとするぬらりひょんの体が、ゆっくりと浮いた。

 魔法ではない。

 パワーだけで、あの巨体を持ち上げているのだ。


 ウカはぬらりひょんを神域絶界の『天井』に叩きつける。


「ぐぼぁっ!」


 悲鳴をあげるぬらりひょんを、今度は地面に叩きつけた。

 そのまま、上、下、上、下と繰り返す。


 巨体が動くその風圧だけで吹き飛ばされそうになる双葉達を、結界で護ってやる必要があるほどだ。


「こ、このぬらりひょんが……」


 ぼろぼろになったぬらりひょんはすでに巨体とは呼べない程度の大きさに縮んでいた。


 ウカはぬらりひょんの胸に手をつっこみ、頭部に向かって無造作に振り上げた。

 胸から頭部にかけて消滅したぬらりひょんの体は、それでもなおゾンビのように、少しずつ再生しなが、ウカに攻撃を加えようともがく。

 そんなぬらりひょんをウカは、無表情のまま細かく引きちぎった。

 やがて再生する力を失った肉塊は、さらさらと砂になって、虚空へと消えていった。


「大儀であった」

「はっ……」


 ヒミコの労いを受けたウカは、ほんの一瞬だけ顔をほころばせると、ヒミコの背後へと戻る。


「皆の者もご苦労であった」

「「「うおおおおお!」」」


 ヒミコ陣営のヴァリアント達が勝どきの声をあげる。

 終わってみれば、オレ達はもちろん、ヒミコ陣営の被害もゼロ。

 そして、ぬらりひょん陣営は全滅である。


「なるほどな、してやられたよ」


 オレは風の魔法で声を増幅し、三百メートル先のヒミコに話しかける。


「見事な戦いぶりであったが?」


 ヒミコは「語ってみよ」とばかりに笑みを浮かべて見せた。


「この戦い、ぬらりひょん達を……いや、あんたに逆らう可能性のあるヴァリアントをあぶり出して、まとめて処分するのが目的だったんだろ。そのために、オレをダシに使った」

「はて、妾は親切で忠告してやっただけじゃ」

「オレと、ぬらりひょんの両方にな」

「ふっ……」


 笑みだけで、返事はなしか。


 ヒミコがなんのために反乱分子をあぶり出したかったのかはわからない。

 近々大きな戦でもあるのか。

 もしくは、海外勢に侵略されつつあるのを危惧し、日本のヴァリアントを一枚岩にしておきたかったとかそんなところだろうか。

 単純に支配を強めたかっただけという可能性もあるが。


 こうしてオレが語ってみせることも、彼女のカリスマを上げることに、一役買わされている気さえする。

 さらに言うなら、ウカとの顔合わせまで計算だったのではないだろうか。

 それこそ、何のためかはわからないが。


「一つ聞かせろ。オレの家を焼き、クラスメートを襲ったのは、お前達だな」


 ここまでお膳立てされているのなら、それらもヒミコの計算だったと考えるのが自然だ。

 オレをここに呼び出すための。


 ヒミコは質問に答えず、出会ってから最も邪悪な笑みを浮かべた。


 それを見たオレは、瞬時にヒミコに斬りかかる。


 こいつは今殺す!

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