第220話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(14)
そうこうしているうちに、長野決戦の当日。
オレ達4人は、関東にある日本有数のターミナル駅にいた。
長野への移動は魔法を使うつもりだったが、由依の反対にあったのだ。
飛んでいくなんて味気ない、というのが彼女の意見だ。
そうだよな。
これから下手をすると一生戦い続けていくのだ。
どんな時だろうと、少しでも人生を楽しむことを考えないと、戦うだけの人生になってしまう。
異世界では許されないことだったが、今の日本なら人生を楽しむことは、そこまで大きな贅沢じゃない。
いや、『護る戦い』をしている彼女達だからこそ、そうする権利があるはずだ。
由依に気をつかわせてしまったな。
本来は、オレが提案すべきことだった。
オレもまだまだだな。
せっかくだから、オタク的な意味で聖地巡礼という単語の元となったという説もある長野を楽しみにたいところだ。
惜しいことに、その作品はまだ放映前だが。
「新幹線で行くのか?」
「何言ってるの、まだ長野に新幹線は通ってないよ?」
由依の言う通りだった。確か今年開通だとニュースで見た気がする。
まあ、ブラックリーマン時代の出張は、高速バスだったわけだが……。
さほど長くない特急列車の旅はつつがなく終わるはずだった。
車内に多数のヴァリアントが乗っていなければ。
ホームで並んでいる時から気にはなっていたが、感知できるだけで数十人のヴァリアントがこの列車に乗っている。
人間に擬態できていることから、それなりに能力を持ってはいるが、目を合わせなくてもソレだとわかる程度の連中だ。
ヒミコの部下か? それとも、オレを狙う連中が長野に集結しているのだろうか? もしくはそれらとは別か。
いずれにせよ、どの陣営のヴァリアントかは不明だし、走る電車内では一般人に被害が及びかねない。
今のところ向こうから手を出してくる様子はないし、注視しながらも、手を出さないのが賢明だろう。
由依達には状況だけ伝えて、普通に振る舞うように言っておいた。
美海だけはそわそわしだしたので、とりあえずババ抜きでもして落ち着こうということになった。
「一抜けだ」
「またあ? ちょっとカズ、強すぎじゃない? ババ抜きでこんなに勝率偏ることある?」
由依が言うように、ほぼ全てオレが1位で抜けていた。
顔の筋肉の動きなんかで、なんとなくどこにババがあるかわかってしまうのだからしょうがない。
「お兄ちゃん、カードを透視とかしてるんじゃ?」
「え? カズ君、透視なんてできるの? えっち……」
「双葉の疑いはともかく、美海のはひどい濡れ衣なんだが!?」
透視はできるけども。
「やったー! 一抜け!」
久しぶりに最初にあがった由依が、上機嫌でスティック型のお菓子をつまんだ。
「はいカズも」
そしておなじお菓子をオレの口元にもってくる。
双葉の表情を読むのに集中していたオレは、それをひょいと食べた。
「あ……」
自分がなかなかに照れることをしたと気付いた由依は、顔を赤くして俯いてしまった。
それを見たオレも思わず赤面してしまう。
「あぁ! ズルい!」
双葉までババ抜きを投げ出して、別のお菓子をオレに食べさせようとする。
さらに、控えめに美海が続く。
ほとんど餌付けである。
その光景を、大学生らしき三人組の男子が舌打ちしながら見てきた。
気持ちはわかるので何も言えん……。
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