第219話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(13)

 双葉に神域絶界を展開してもらい、いつものように剣で切り刻んで死体を焼き尽くす。

 ワンパターンと言うなかれ。

 ザコ相手ならこれが効率良いのだ。


 とりあえず渡辺を起こす。


「んん……さっきの連中は……?」

「オレ達が来たら逃げていったぞ」

「そうなの? ありがとう」


 渡辺はまだ意識がはっきりしないようだ。

 面倒な質問をされる前に、情報だけでも聞き出しておこう。


 オレは渡辺から鬼まつりの行きそうなところを教えてもらった。

 残念ながら来栖の情報は得られなかったが。


 鬼まつりが休日によく行くのは二カ所。

 ギャル御用達の通りとビルだ。

 ただ最近は清楚系に見た目を変更したせいで、ギャル仲間に誘われないと行くことも減ったとか。

 あとは当然、自宅の可能性もあるが、家の電話には出なかった。

 渡辺と違い、鬼まつりも来栖も携帯電話は持っていない。


「時間が惜しい。二手に分かれよう。オレは美海と行く。もしそちらにヴァリアントが出ても無理するなよ」


 戦力の分散が良くないのはわかっているが、速度優先だ。

 戦力的にならすなら、オレと由依を分けざるを得ない。

 双葉と美海を比べると、双葉の方が戦闘力が高いので、自然とこの組み合わせになる。

 今の二人なら、よほどのことがない限り、最悪逃げられはするだろう。


 オレ達はうなずきあうと、すぐに散開した。




「またお姫様だっこ……いっそこのまま……ぽっ……」


 オレの腕の中でなにやら美海が妄想の世界に入っているが、かまっている場合ではない。


 渡辺に教えてもらった通りには、百軒ほどが軒を連ねるオシャレな若者向け商店街といった感じだ。

 翌年あたりには、ガングロが出現するはずだが、この頃はまだコギャルが主流である。

 海外からの観光客も来る有名な場所である。

 夏休みだけあって、3メートルほどしか幅のない通りは人でごったがえしていた。

 ここから鬼まつりを探すのは至難だが……。


 いや、逆に人の気配が少ない場所を探した方がいいな。

 ヴァリアントによる人払いの効果がでているなら、混み合った通りの中に人気の無いスポットができているはずだ。

 そして、ここに鬼まつりがいない可能性も考えて、あらかた探したら由依に合流しよう。

 そもそも、鬼まつり達が襲われると決まったわけではないのだ。

 渡辺まで襲われたことを考えると、可能性はそこそこ高そうだが。


 そうして路地裏など人の気配がまばらなところを中心に探すも、鬼まつりは見つからなかった。

 代わりにいたのが来栖だ。

 シルバーアクセサリーを物色している。

 首や手などに、節操なくじゃらじゃらつけては、鏡の前でポーズをとっている。

 夏休みデビューを狙っているのだろうか。

 彼は渡辺狙いだったはずだが、オシャレの方向性を大いに間違っている気がするぞ。

 まあ……オレがオシャレについてどうこう言えたことではないが。


 とりあえず、はからずも来栖の無事が確認できた。

 オレは念の為、来栖に魔力を貼り付けておく。

 これで彼のまわりに魔力の強い何かが現れれば、オレが気付ける。

 こうすることで彼自身が魔力的に目立ってしまうことになるが、狙われる可能性がある以上、しかたがないだろう。できるだけ小さい魔力にするため、持続時間は数日にしておいた。


 なお、鬼まつりは由依達の方にいたらしい。

 ちょうど由依達が鬼まつりをみつけた際、ヴァリアントも出現、難なく倒したということだ。

 さらに四人が集合した後、来栖のところにも低鬼が出現。

 とって返すことになった。


 いずれも出現したのは日本神話系のザコばかり。

 念の為、居所のわかるクラスメイトをまわってみたが、それ以上ヴァリアントと遭遇することはなかった。

 すなわち、今日1日で、海に一緒に行ったクラスメイトだけが、ヴァリアントに襲われたということだ。


 オレを狙う連中が何らかの罠をしかけようとし、オレの交友関係の情報源があの海だった……?

 そういえば、ヒミコは『本隊』という言葉をつかっていた。



 敵の狙いはわからないが、とにかく疲れる一日だった。

 来栖につけた魔力を、とりあえず思いつく限りの知り合いにつけてまわった。

 これで長野での決戦前に余計なちょっかいをかけられる可能性は減ったはず。


 相手の狙いがみえないというのはなんとも気持ち悪いが、いったん阻止できた。

 そう思って良いのだろうか……?

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