第221話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(15)

 お菓子で腹がパンパンになる前に、なんとか長野に到着したオレ達は、魔力の反応が複数ある山岳部へと向かった。


「登山用の山でもないのに、ずいぶん人がたくさんいるんだね……」


 獣道を分け入って進んでいるにも関わらず、周囲にはまばらながらも人が目立つ。

 どこかへ向かっている者もいれば、ぼうっと立っているだけの者もいる。

 かなり不気味な光景だ。

 まさかこれが全て山菜採りというわけでもないだろう。

 服装も山に入るためのものではなく、皆普段着だ。

 スーツやハイヒールまでいる始末である。


 美海もわかって訊いているのだろう。

 不安げに周囲を見回している。


「ヴァリアントだな」


 魔力だけでわかる者、目を合わせないと判断できない者など玉石混交ではある。

 だが、ざっと感知できるだけで500体は山に散らばっている。


 これがヒミコが統治できているヴァリアントの全てかはわからない。

 日本の人口をざっくり1億人として、1%がヴァリアント化すれば100万体。

 0.1%で10万体である。

 千人に一人がヴァリアント化していると考えるのは多すぎるか?

 もうひとつ桁を落とせば、1万人に一人だ。

 それであれば、日本全国で1万体。

 東京だけで千体以上という概算になる。


 これまで国内で狩ってきた体感としては、それくらいかもっと少ないか……。

 だが、先日の音速旅客機内での大量発生のようなこともある。

 500体という数字が、日本のヴァリアントのどれくらいにあたるのか判断するのは難しいな。

 だが、個人主義に思えるヴァリアントをこれだけ統率できる時点で、かなりのカリスマなのは間違いない。


 ヴァリアント達の様子を見ていると、どうも結界の準備をしているように思える。

 何か作戦があるのだろう。


「双葉、式神を」

「うん」


 双葉は頷くと、カバンから鳥の形に切った手のひら大サイズの白い和紙を取り出し、魔力をこめた。

 すると、5枚の和紙は小鳥へと姿を変え、散らばるように飛び去った。


 訓練中にオレが作った式神だ。

 双葉の魔力で発動するようになっている。

 日本神話系で訓練をしていただけあって、双葉は式神との相性が良かったのである。

 由依のように近接戦闘が得意ではない分、こういった搦め手に適性があるようだ。


 飛んでいった式神は双葉と視界を共有できる。

 もちろん1体ずつとではあるが。


「山を囲む感じでいいの?」

「頂上付近に一体残してくれ」

「了解……」


 集中する双葉をみんなで見守ることしばし。


「できたよ」

「よし、それじゃあ町に戻ってソバでも食べるか」

「ええ? これだけでいいの?」


 双葉以外の二人も拍子抜けをしたようだ。


「ああ。山を詳しく調べておくつもりだったが、その必要はなさそうだ」

「カズが言うなら……」


 由依はいまいち納得していないようだが、それ以上訊いてくることはなかった。


「何か変わったことがないか、たまに式神をチェックしてくれな」

「うん、それくらいなら……」


 この様子を見る限り、それだけで十分だ。

 決戦が始まるまでは、英気を養っておこう。


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