第214話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(8)

「なにこの凄い魔力――って、お兄ちゃんも何してんの!?」


 オレがふすまを開けるのと同時に、双葉も部屋から出て来た。

 美海を抱えた……つまり、お姫様抱っこした状態のオレを、双葉が指差し、プルプル慄えている。


「二人っきりで……妹がいるとなりの部屋で……な、なにしてたの!?」

「いや、なにもしてないって」


 オレは首に抱きついている美海を下ろした。


「ほんとにぃ?」

「そんなことより結界だ! ヤバいやつが来てる」


 魔力のない人間には感知できないが、オレの張った結界が凄まじい魔力とぶつかっている。

 侵入されるのも時間の問題だ。


「あっちだ!」


 オレは二人を置いて飛び出した。




 どでかい魔力の発生源につくと、一人の女性が今まさに結界を無理やり抜けてきたところだった。

 結界は破られてはいない。一時的に裂け目を作って侵入したのか。

 空中にあいた結界の穴は、女性が通り抜けた後、ゆっくり閉じていく。


 空中からオレを見下ろすその女性は、20代前半のようでもあり、アラサーのようでもある長身の美人だ。

 背はオレと同じくらい、足首に届く長い黒髪が不自然に広がっている。

 その毛先までぎっしり濃密な魔力が通っている。

 魏志倭人伝にでも出てきそうな古めかしい和装と、強く引かれた赤いアイシャドウ、何より一般人なら見ただけでひれ伏したくなるような眼力が印象的だ。


「貴様がナンバカズか」


 女性はゆっくり降りてくると、地面から1メートルほど浮いた地点で停止し、何もない空間に脚を組んで腰掛けた。

 着物の隙間から白い太ももが露わになる。


 実は昨晩、3回ほど結界を破ろうと試みたヴァリアントがいた。

 そのいずれも、塵も残さず消滅している。

 それを突破してきたことからも、目の前にいるヴァリアントがただ者ではないとわかる。


「そうだが、そういうアンタは?」

「妾の名はヒミコ。それ以上の説明は不要であろう?」

「知らない名前だな。子供向けロボットアニメのキャラか何かか?」

「くっく……挑発は下手と見える」


 ヒミコはその赤い唇を優雅に笑みの形に歪めた。

 あえて挑発してみたのだが乗ってこないな。

 もちろん、この挑発で激怒させたかったわけではない。

 どういった反応をするのか、性格を見たかっただけだ。


 もちろんこのヴァリアントの元となったのは、あの有名なヒミコだろう。


「オレの名前を真っ先に確認するってことは、用があるんだろ?」

「察しが良い者は嫌いではないぞ」


 たしかカグツチの口からその名が出ていた。ヒミコとは日本のヴァリアントを束ねる長だったばず。

 必要以上に群れたがらないヴァリアントを組織として束ねているのだ。

 かなりのカリスマと実力を持っていると考えていいだろう。


「妾と組まぬか」


 ヒミコの提案は、想定していたものの中では、確率が低いだろうと考えていたものだ。


「なぜだ?」


 即答で断ろうかとも思ったが、好奇心が勝った。

 互いにメリットがさほどないのだ。

 仲間のフリをしてオレの寝首をかきたいのかもしれないが、そこまで油断するとも思っていないだろう。


「我々ヴァリアントは強い」

「まあそうだな」


 何と比較してかは訊かないでおくが、個体の平均値を取れば、間違いなく地上最強だろう。


「だが個体数は圧倒的に少ない」

「普通の人間なら、100億人いたところであんた一人で皆殺しにできそうだが?」

「人と比べてではない。種として存続するための個体数の話だ」


 なるほどな。以前にも似たようなことを考えていたヤツがいた。


「それがなぜオレと手を組む話になるんだ?」


 手を組むということは、共通の敵がいるということだが……。

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