第215話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(9)

「自分達の戦力を減らしたくないから、オレにとっても敵になりそうなヤツを倒すのを手伝わせようってことか」


 オレのセリフにヒミコは悪びれる様子もなく頷いた。


「オレにメリットがない」


 人間(オレ)に協力を求める以上、相手は人間ではなくヴァリアントなのだろう。

 ならば勝手につぶし合ってくれた方がいい。

 そもそも、ヴァリアントと取り引きをするつもりなどないが。


「妾の敵が、貴様の命を狙っていると言ってもか?」

「何……?」

「貴様はヴァリアントを殺しすぎたのだ。スサノオに加え、日本組織の壊滅、さらに最近ではハーデースやポセイドーンとの戦いも、一部では知れ渡っておる」


 ハーデースはともかく、ほぼ神域絶界内だけで周囲に影響を及ぼさなかったポセイドーン戦のことまで知っているのか。


「貴様を殺しておくべきだという勢力が大きくなってきていてな」

「あんたは違うのか」

「貴様は降りかかる火の粉を払う以上のことはしておらぬだろう? たまたまかとも思ったが、今日会ってみてそれが確信に変わった。ならば、貴様に手を出すべきではないというのが、妾の判断じゃ」

「自分達もオレにちょっかいをかけないから、そちらにも手を出すなってことか? 随分弱気じゃないか」

「勝つことと、消耗しないことは等しくないからの。妾は無駄は嫌いじゃ」


 さすが、食欲が理性に勝つヴァリアントを束ねる長だけはある。

 こういうタイプは一筋縄ではいかない。

 今は部下を大切にするようなことを言っているが、必要とあれば、部下をいくらでも犠牲にするだろう。

 そうするタイミングをしっかり見極めるタイプだということだ。


 オレとヒミコの間に、夏の生暖かい夜風が吹き抜ける。


 そこへ遅れて、由依達三人がやってきた。


「ヴァリアントと組む気はない」


 オレはヒミコから視線を外さず、はっきりとそう答えた。


「ふむ……残念じゃ。ならばこれだけは教えておいてやろう。『奴ら』の本隊は三日後の夜、西から長野を通ってやってくる。我らは巨大な結界を用意して迎え撃つつもりじゃ」

「組む気はないと言ったぞ」

「じゃが降りかかる火の粉は払うのであろう?」


 ヒミコの目的は結局、その情報をオレに伝えることだったのだ。

 組めればそれでよし、そうでなくとも今の情報を聞けた、オレは動かざるをえないと読んでいた。

 さらに、実際に会ってみて、オレの印象が違えば別の策も用意はしていたのだろう。


 ヒミコの言ったことが本当かはわからない。

 だが、陽動としてオレを長野に引きつける理由も今のところないはずだ。

 オレが護るべきものは、一緒につれていけばよいからだ。


 ならば、いつ襲ってくるかわからない敵を相手にするよりも、こちらから出向いた方がよいということにはなる。


 なるのだが……。

 踊らされているようで気に入らない。

 大規模な戦闘になること以上の何かを警戒しておいた方が良いかもな。


「あと三日ある。悩むがよい」


 そう言ったヒミコは、由依達に一瞥をくれたあと、再び結界に穴をあけて出て行った。


「何いまの……」

「すごい魔力だったよ……」


 由依と双葉がぽかんと口をあけて、ヒミコが出て行った方を見ている。

 美海はまだそのあたりはピンと来ていないようだ。


「ヒミコだと名乗っていたな。日本神話系のヴァリアントを束ねる長だ」


 もし本物ならな、と心の中で付け加えておく。


「行くの? 長野」


 遅れては来たものの、それからのやりとりで由依は状況を察したらしい。


 オレは頷きながら、ヒミコとのやりとりを由依達に説明した。


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