第213話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(7)

 美海がオレの白鳥邸宿泊を知った翌日、さっそく彼女も宿泊者の仲間入りをした。

 宿泊場所は、由依が普段生活している洋館である。

 みなみに、初日は同じ部屋で寝たオレと双葉だが、翌日からは別室に分けてもらった。

 双葉は今のままでいいと言ったが、年頃の妹と同室というのも、なにかと不都合があるだろう。


 そうして、訓練を終えた夜。

 夕食を囲む空気は温かいものだった。


「なんだか部活の合宿みたいだね。部活ってやったことないけど」


 不意に出た美海のセリフに皆が頷いた。


「目標は大会優勝とかじゃなくて、死なないことだけどね」


 冗談めかして言った双葉に、皆は苦笑いをするしかなかった。

 気を抜けば死ぬが、悲観的になってもしょうがない。

 一生、悲観的に生きていくことなどできないからだ。


「私、ちょっと自主練してから寝るね」


 食べ終わった美海が部屋を出ていく。

 まだ彼女は由依や双葉の訓練について来られない。

 日中は美海の基礎訓練にオレの時間が割かれるため、夕食後の時間は、由依と双葉に充てているのだ。

 とはいえ、純粋な戦闘力では、由依と双葉の間にもかなりの差があるものの、連携の訓練は可能だ。




 そんな生活を始めて2日ほど経った夜。

 オレが布団に寝ていると、静かに窓の網戸が開いた。

 何の気配もない。

 敷地に張った結界が破られた様子もない。


「美海か」

「うん、こんばんはぁ」


 姿を現した美海は神器を発動し、バニーガール状態だ。


「どうした? そろそろ寝ておかないと、明日がきついぞ」


 壁にかけられた時計は、既に24時を回っている。


「夜の特別訓練をしてほしいなって」


 そう艶かしくつぶやきながら、オレの布団へと潜り込んでくる。

 また神器に呑まれてるのか。

 彼女の場合、エロが魔力制御のきっかけになっているので、正気を保たせるのが実に難しいのだ。


 美海のもふっとした手が、布団の中でオレの太ももを撫でる。

 浴衣の隙間から、するすると手が這い上がってくる。

 振り払うのは容易い。

 だが、正気を失っているとはいえ、傷つけるようなことはしたくない。

 したくはないのだが……。

 放っておくと、美海の手がどんどん上がってくる。


「そのへんにしといてくれ」

「えぇ~? いやなのぉ?」


 布団から出て行くように、美海の肩をやんわり押して見るも、逆に近づいて来た。

 ふっと耳に息をかけてくる。


 美海の息が耳に……。


 …………。

 くだらないことを考えて現実逃避している場合ではない。


 オレは仕方なく、美海を抱きかかえた。


「やんっ、お姫様だっこ」


 安心しろ、すぐ下ろすから。


 そう思った瞬間、外の結界に強い魔力が衝突するのを感知した。

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