第210話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(4)
そんなどたばたした朝を終えた後、今日も訓練のために全員集合だ。
いつもは駅で美海と待ち合わせてから白鳥邸を訪れるのだが、今日は出迎える側だ。
事情を説明するため、オレは門で美海を待っていた。
駅で待ち合わせないことは、事前に電話で伝えてある。
「おはようカズ君」
巨大な門の横にある通用口から、美海が入ってきた。
オレの顔を見たとたん、笑顔になる。
目は髪に隠れたままだが。
「電話では聞けなかったけど、なんで今日は先にいるの? はっ……まさかお泊まり……つまり……そういうこと!?」
「泊まったのは確かだが、美海が考えているようなことはないぞ」
「やっぱり二人の間に割り込むのは……、で、でも! わ、私もまぜてもらっても大丈夫ですか!?」
「話を聞いて!?」
「初めてだけど、三人ならむしろ安心かも!?」
「頼むから帰ってこい」
真っ赤になって暴走する美海をなだめつつ、昨日のできごとを説明した。
「そっか……家がヴァリアントに……」
どう声をかけてよいのかわからない美海は俯いてしまった。
「美海が落ち込む事じゃないさ」
「うん……。私にできることがあったら何でも言ってね。そんなにない気もするけど……」
そこでネガティブにしょんぼりするところが美海らしい。
気になるのはむしろ美海の安全だ。
狙われているのがオレだけなら良い。
だが、それがオレの周囲にまで波及した場合、美海が狙われる可能性は低くない。
訓練場についたオレは、そのことを由依達と相談した。
「美海ちゃんがうちに泊まることなんてなんでもないけど、美海ちゃんのお家の方は大丈夫なの?」
由依は判断を美海にゆだねたようだ。
まあ、そうなるよな。
「カズ君はどうした方がいいと思う?」
美海は不安げにオレに訊いてくる。
「少なくとも、美海が親の世話になっている間は、この家に住み続けるというわけにもいかないだろ。ただ、今回の問題が解決するまでは、オレ達4人は固まっていたほうがいいかもな」
何かあった時に護りやすい。
夏休みということもあるし。
「わかった。今日帰ったら親に訊いてみるね。うちは放任主義だから、しばらくなら何も言われないと思う。特に、白鳥さんのところって言えば」
「じゃあ決まりね。お泊まり会みたいでちょっと楽しそう」
由依はクラスメイトとお泊まりイベントなどなかったのだろう。
本当に楽しそうだ。
「カズ君と二人きりになれなくて残念?」
めずらしく美海がいたずらっぽく言った。
「二人っきりなんてそんな……双葉ちゃんもいるし」
「あたしをお邪魔虫みたいに言わないでくださいね」
「そんなつもりはなかったよ!」
実にかしましい集まりになったが、暗い雰囲気になるよりは良いだろう。
きっとみんな気付いているが、個人を狙って明確に生活圏へと攻め込まれたのはこれが初めてなのだ。
和やかな雰囲気の中にも、どこか緊張感が漂っている。
この世界で生きていくとはつまり、そういうことなのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます