第209話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(3)

 朝食を終えたオレ達は、メイドが下げてくれる食器を見送りながら、本題に入った。


「警察の見解は、放火で固まるみたい」


 事実なのだからそりゃそうだというところではあるのだが、改めて由依から情報をもらえるのは大変ありがたい。

 昨日の今日で警察情報を得ているあたり、さすが白鳥家というところか。


 火災保険は下りるようだが、問題が解決するまで、次の家に住んでよいものかどうか……。



 オレは二人に、昨晩見たヴァリアントのことを話した。



「放火犯はヴァリアントってこと?」

「許せない……」


 由依は眉をひそめ、双葉は怒りに顔を歪ませた。


「でも変ね……カズの力を知っていれば、放火でどうこうなるなんて思わないはずだけど……」


 それはオレも気になっていた。


「カズのことをよく知らないヴァリアントの仕業ってこと……?」

「偶然うちが燃やされたはずがないからな。オレの存在を邪魔には思うが、オレのことをよく知らないヤツが犯人か?」

「それしか考えられないけど……」


 頭を悩ませてもこれ以上の考えは出てこなさそうだ。


「問題は、理由がわからないままだと、今後も同じ事をされるかもってことだな」


 面倒なことになってきた。

 こうなりにくいよう立ち回ってきたつもりではあるが、何も考えずにつっこんで来る相手だと、そのあたりの駆け引きは通じない。

 いや……本当にそうなら、返り討ちにすればよいだけだ。


 だがどうにもおかしい。

 情報不足でなんとも言えないが、力押しタイプなら、昨晩逃げたりしない気がするのだ。


「それなら、しばらくうちに泊まったら?」

「いや、いくらなんでもそれは……」

「大丈夫よ。部屋どころか、家がいっぱいあるんだから。それにこの敷地内なら、一般人を巻き込む可能性もぐっと減ると思うけど?」

「む……うむ……」

「遠慮してるなら無用よ。カズがいなかったら、きっと今頃あたしは死んでるし、父だってこの前の島で死んでる。文句を言う人なんていないわ」


 それでも遠慮してしまうのが、オレの小心者……というか、根がコミュ症なところだ。


 とはいえ、由依の提案が、現状では最善なことにかわりはない。


 ちらりと双葉を見ると、難しい顔で頷いた。

 思うところはあるかもしれないが、承諾ということか。

 ヴァリアントのことがなくても、家を失ったオレ達にとっては、ありがたい申し出であることは確かなのだ。


「やっかいになるよ。ありがとう」

「おっけー! 自分のうちだと思ってつかってね。家は今使ってる和館でいい?」

「ああ」

「父には私から言っておくわ」


「大丈夫だ! なんなら同じ布団で寝てもかまわんよ!」


 突然部屋に入ってきたのは、由依の父、鉄岩だ。


 こいつ……オレの強さを見て、由依とくっつける方針に切り替えたらしい。

 それはそれでなんかムカつくぞ。


「何を言ってるの!」


 真っ赤になった由依が、鉄岩の背中を押して、部屋から叩き出した。


 額に汗を浮かべて振り返った由依は、もごもごと口を開く。


「同じ布団はさすがにだけど、一緒の部屋くらいならいいよ……?」


 お前は何を言っているんだ。

 混乱しすぎだろ。

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