第208話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(2)

 朝起きたオレの目に飛び込んできたのは、見知らぬ日本家屋の天井だった。

 そうか……昨日は家が焼かれて、白鳥家に泊めてもらったのだ。


「あさぁ……?」


 となりに寝ていた双葉もちょうど起きたところらしい。


「お目覚めですか?」


 まるでオレが目覚めるのを待っていたかのように、襖が開いた。

 そこには正座のメイドがいた。


「おぉ……朝からメイド……」


 キリッとした目のメイド(あえて『さん』はつけない)は、「なにか?」と言いたげな鋭い目で射抜いてくる。

 ちょっとこわい。 


「こちらお着替えです。身支度が整いましたら、お食事をご用意している建物へご案内いたします。お着替えのお手伝いは必要でしょうか?」

「い、いらないです……」


 正直、ちょっと興味はあるが羞恥心が勝った。


「承知しました。外でお待ちいたします」


 メイドは音もなく襖を閉めた。

 彼女が置いていった服は、ジーパンにTシャツと、ちょっとガーリーなワンピースだ。

 オレと双葉がよく着るものである。

 まだ9時前だが、どこから手に入れてくれたのだろう。

 白鳥家パワーを使えばなんてことはないのだろうが、逆に言うと裏の力を使わせてしまったということだ。

 後で由依に礼を言っておこう。


 ちなみに今は、二人とも浴衣姿である。

 旅館かここは。


「こっち見ちゃだめだよ」

「妹の着替えなんて見てもな」

「ふーん、由依さんのなら見たいんだ?」

「そういうことじゃなくてだな」


 見たくないかと問われれば、それはまあ……。




「あたしたちの持ち物、これだけになっちゃったね」


 着替え終わった双葉は、オレがお土産に渡した貝殻のキーホルダーを掌に置いて、ぼうっと眺めている。

 双葉にとっても想い出のある家なのだ。

 喪失感はかなりのものだろう。

 覚悟を決めて実家を焼いた錬金術師とは違うのだ。


 キーホルダー以外には、オレが海に持っていった荷物と、双葉が買い物に持っていった荷物しかない。

 制服なども燃えてしまった。

 夏休み中だったのが幸いだ、とはとても言えない。


 メイドに案内されたのは、白鳥家にある洋館の一つだ。

 オレと双葉が泊めてもらったのは、ただの和室ではなく、和館だった。

 一つの敷地にどれだけ建物あるんだよ。


 朝食が並べられているのは、鉄岩との会談につかった大きなものではなく、6人がけの食卓テーブルだった。

 部屋もこじんまりとしたものだ。

 少しでも落ち着くようにという由依の気遣いだろうか。


「おはよう、眠れた?」


 オレ達が部屋に入ると、由依が駆け寄ってきた。


「オレはな」


 どんな時でも、必要があれば眠れるし、その気になれば一月くらいなら寝ずに活動もできる。

 だが少し離して敷かれた布団の中で、双葉は夜中に何度も寝返りをうっていた。

 やがて、こっそりオレの布団に潜り込んできて、明け方出て行った。


 オレは寝たフリをしていたが、そのことに双葉は気付いていただろう。

 それで少しでも眠れたのならよいが。


「あたしも眠れたよ」


 まだ少しとろんとした目でそう言い張る双葉にツッコミを入れる無粋なマネを、由依はしない。

 普段はなにかと言い合っている二人だが、こういうところは流石だ。


「まずは食べましょう。これからのことは、お腹を膨らませてからね。私が作ったんだよ」


 由依が出してくれたベーコンエッグやコンソメスープは、オレの胃袋に優しく染み渡った。


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