第207話 12章:ヴァリアント支配伝ヒミコ(1)
■ 12章 ■
築二十年の小さな二階建てマンションが盛大に燃えている。
室内も狭く、新しいとは呼べないものだったが、最初の人生も含めて、色々な思い出のある家だ、
燃えさかる炎が、夕暮れのオレンジを濃い赤へと染めている。
ふ、双葉!
中にいるんじゃないのか!?
「お兄ちゃん!」
オレが燃えるマンションに飛び込もうとすると、後ろから声をかけられた。
「双葉! 無事だったか!」
「うん、買い物に行って帰ってきたら、もう燃えてたの」
「そうか……よかった……」
「でも火事の原因になるものなんてなかったはずなんだけど……」
不安げな顔で見上げる双葉の視線は、オレ達の部屋に注がれている。
うちが一番燃えている。
出火元はうちなのか?
だが双葉が言うように、原因になりそうなのは、コンセントとコンロくらいしかないが……。
消防車はすでに到着しているものの、ひとまず逃げ遅れた人がいないか、マンション内の気配を探る。
うちが角部屋だったことが幸いしてか、建物内に人の気配はない。
ただし、「人は」である。
燃える屋根の上に、こちらを見下ろす黒い影が現れた。
人の形をしたその影と目があった気がした瞬間、消え去った。
瞬間移動だ。
ヴァリアントか……。
うちを燃やしたのも今のやつだろうか?
だがなんのために?
オレを襲ってきたのか?
いきなり火を放つというのは雑にもほどがあるが。
考えたところで答えをだすことは難しいだろう。
瞬間移動で逃げられたため追うのは不可能だが、魔力パターンは覚えたぞ。
◇ ◆ ◇
その後警察に連れて行かれたオレと双葉は、別々の部屋で色々と聞かれていた。
明らかに火元なのだからわからなくはないが、やはり良い気持ちはしない。
そこへ現れたのは、救いの女神だった。
由依がオレ達を警察署から出してくれたのだ。
話の途中でである。
白鳥家パワーを使ったのか。
警察官達は不快な顔をしていたが、それもまた当然だろう。
「ありがとう、助かったよ」
「えへへ。カズの役に立てることなんて滅多にないもの」
「いいや、いつも助けられてるさ」
これは本当だ。
由依が近くにいてくれることで、どれだけ心が満たされているか。
「こほんっ。由依さん、ありがとうございました」
そこへ、咳払いをしつつ割って入ったのは双葉だ。
「どういたしまして」
ふふーん、としてやったり顔の由依である。
仲が良さそうでなによりだ。
「ところでふたりとも、今日泊まる場所はないよね?」
今日どころか、明日以降も行くあてがない。
「じゃあさ……」
由依の提案は、内心期待していなかったと言えば嘘でありつつも、とても恐縮するものだった。
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