第204話 11章:水の星へ覚悟を込めて(16)

 沖から戻ったオレが最初に立ち寄ったのは、美海がいる場所だ。

 人気のない岩場の影でで、美海は体を隠すように体育座りをしていた。

 既に変身は解けており、すっぽんぽんである。


 なお、鬼まつりはまだすやすや眠っている。


「ひゃあ! カズ君!」


 オレが岩の影から顔を出すと、美海は悲鳴をあげつつも動くことができない。

 膝に押しつけられた胸が、ぐにゃりとひしゃげていて艶めかしい。


「悪い」


 オレは慌てて岩影に顔をひっこめた。


「倒したんだね」

「まあな、とりあえず着るものを持ってくるから待っててくれ」

「うん……ごめんね」

「謝るところじゃない」


 ここで「ごめん」と言ってしまうのが、かつての自分を見ているようでもどかしい。

 だからこそ、オレは美海を気にかけてしまうのかもしれない。




 みんなのもとへと戻ると、由依が心配そうな顔でこちらを見た。

 オレが小さく頷くと、彼女はほっと胸をなで下ろす。


「なあに? その通じ合ってる感じ?」


 渡辺が煽ってくるが、とりあえずとぼけておく。


 海の家でTシャツと短パンを買ったオレはそれを美海に渡した。

 美海をそのまま更衣室に送り、オレは彼女の荷物を取りに来たのだ。


 とはいえ、オレが女子更衣室に美海の荷物を持っていくわけにもいかない。

 そこで荷物は由依に頼むことにした。


「美海ちゃんどしたん?」


 荷物を持って更衣室に向かう由依の背中を目で追う渡辺が、オレに訊いてくる。


「ちょっと気分が悪くなったらしくてな。着替えて日陰で休むってさ。さっきまでは鬼まつりがみてくれてたらしい」


 オレがちらりと鬼まつりに視線を送ると、彼女はちょっと気まずそうに首をコクコク縦に振った。

 鬼まつりはほぼ寝ていただけらしく、これといって消耗もしていない。


「そっかあ。うーん……ここで切り上げちゃったら逆に気を遣うだろうし……。ちょっと早めに帰る感じにしようか」


 渡辺の提案に文句を言う者はいなかった。

 こういうところはさすが委員長だな。




 美海の様子はオレと由依が交代でみることになった。

 オレが美海の休んでいる海の家に行くと、彼女は由依と穏やかに談笑していた。

 ナンパ野郎も近寄れない、乙女のオーラができている。

 ……ように見えて、由依からは動物的本能に訴えかける、強者のオーラが出ている。

 ナンパ防止に意識してやっているのだろう。

 本能で生きているヤツほど、今の彼女には近寄りがたいはずだ。

 ヴァリアントとの戦いを経て、随分と成長したもんだな。


「由依、交代だ」

「うん。またあとでね、美海ちゃん」


 由依を見送ったオレは、美海の向かいに座る。

 肘をつくと、海の家の無骨な長机がかすかにたわんだ。


「怖かったか?」

「うん……」


 前髪を下ろしたその瞳は見ることができないが、どこかふっきれたような雰囲気を感じる。


 オレは二人の会話が周囲の客に聞こえないよう、音声遮断の魔法をかけた。


 これからする会話が、美海の人生を決めることになるだろう。

 今ならまだ彼女はギリギリ引き返せる。

 だからこそ、ここでどう話すのか、責任重大だ。

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