第203話 11章:水の星へ覚悟を込めて(15)

 オレは熱系魔法を解除し、今度は逆に温度を下げ始めた。

 周囲の海水が少しずつ凍り始める。


「気でも狂ったか! 海水が凍れば俺様の攻撃は防げるかもしれないが、自分が閉じ込められるぞ!」

「既にお前の術中にいるようなものなんだ。何が違う?」


 オレは自分が氷に閉じ込められるのも構わず、周囲を凍結させた。

 百メートル四方が一気に凍り付く。

 本来、氷山のように浮くはずだが、水面から氷が出ることはない。

 神域絶界のせいだ。


 凍結範囲はなおも広がり続けているが、ポセイドーンはそこから逃れるように離れていく。

 だが逃がす気はない!


 オレは全身に魔力をみなぎらせ、広がり続ける氷ごとポセイドーンに向かって突進した。


「バカな! 俺様が支配する海中で、これほどの魔力を操るだと!?」


 ポセイドーンを取り込んだ氷は、なおもその範囲を広げていく。

 既に1キロ四方は超えただろうか。


 オレは氷の中を砕きながらポセイドーンの方へと進む。

 砕いた氷は、無理矢理外側へと押し出し、ポセイドーンへと続く氷のトンネルが完成した。

 氷を溶かすだけでもトンネルはできるのだが、それでは海水とヤツを引き離せない。

 凍っていればいいのかという疑問はあるが、試してみるだけだ。


 黒刃の剣を前に突き出し、ポセイドーンへと突進する。

 その一撃は三叉の鉾を砕き、ポセイドーンの腹を貫いた。


 陸に打ち上げられた魚状態とはいえ、海中のバフが消えただけ。

 さすがに高位の神だけあって、一撃で粉砕とはいかなかった。


「バ、バカな……」


 ポセイドーンは海水を使って氷塊を外側から破壊しようとするが、それで削れるよりも、氷塊が大きくなる方が速い。

 自分の領域だからと油断したのが運の尽きだ。


 オレは剣に魔力を注ぎ込み、ポセイドーンの体内で爆発をおこした。

 粉々に飛び散り、首だけになったポセイドーンがこちらを見上げてくる。


「く……無念だ……。だが、その大きすぎる力、平穏に生きられると思うなよ……」


 そうなれば全て跳ね返すだけだ。


 どれほど強大な力を国でも世界中の戦争をなくすことなどできないように、オレが世界を平和にできるなんて思い上がりはしない。

 だが、身近な仲間だけは護ってみせるさ。


 若い頃の苦労は買ってでもしろというが、やりたくもなかった苦労はこの時のためだったと思いたい。


 ポセイドーンが事切れると同時に、氷塊が消え去った。

 神域絶界が解けたか。


 由依達が正面からぶつからなくてよかった。

 水中で彼女達が勝つのは難しかっただろう。


 先日の北欧チーム全員でも敵わない強さだった。


 やはり人間側の抱える問題は、高位のヴァリアントに対しなすすべがないということか。


 彼らが人間を滅ぼしたり、戦争をしかけたりといった思想にならないことが幸いだ。

 これを『幸い』と言っていいのかはわからないが、その強さにしては被害が小さいことは確かだ。

 異世界でいくつもの国がまるごと滅ぼされたのに比べて……というレベルではあるが。


 とりあえず帰ろう。

 これであの海水浴場の平和は確保できたはずだ。

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