第202話 11章:水の星へ覚悟を込めて(14)

 ――どがぁ!


 背後の岩が突然砕け散った。

 鉾の攻撃に海水が自動的に連動している!?


 おそらく、魔法として発動させなくとも出せる技だ。

 神族がよくやる行動だが、予兆を察知できないので少々厄介ではある。


「すでにここはあんたの腹の中ってわけか」

「そういうことだ!」


 鉾を前方に構え、突っ込んで来るポセイドーン。

 それと同時に、周囲の景色が歪んだ。

 魔法ではなくとも、魔力は帯びている。

 その流れから攻撃の形状を視ることができる。

 圧縮して密度を上げた海水が槍状になり、オレを囲むようにして襲いかかってきている。

 ポセイドーンだけに集中していると、こいつらに全身を貫かれるというわけだ。


「はぁっ!」


 オレは全身を高熱でつつみ、周囲の海水を全て蒸発させた。

 大量の水蒸気が海面へと上がっていく。


「なんという熱量だ! 俺様の水槍ごと蒸発させるとは!」


 水蒸気で視界が悪くなるので、いったん熱をもとに戻す。


「あんたほどの神が、なんで日本近海にいるんだ? ギリシャはいいのか?」

「んん……?」


 ポセイドーンはバツが悪そうに目を逸らした。


「今のヨーロッパはアイツがな……いや、海はどこでも俺様の領域なのだ!」


 海中なのに、眉間に冷や汗がたれるのが見えるかのようだ。


 アイツというのは、たびたび話題に上がるバチカンの戦士だろうか。

 よほど強いらしいな。


 つまり、このポセイドーンは……。


「逃げて来たのか」

「ち、ちがう!」

「違わないだろ? 強いヤツがいるところから逃げてきて、こんなところで女の肉を喰ってるんだ」

「おのれ! 愚弄するか!」

「事実を言っているだけだが?」


 この様子だと、日本に来てから何人も食べていたのだろう。

 しかし、この海で行方不明者が出たといった噂は流れていない。

 これがヴァリアントの怖いところだ。


「アイツと同じように俺様を見下しやがって……!」


 ポセイドーンの体に魔力が溢れていく。


「どれほどの熱を生み出そうが、俺様が全力で操る海にかなうはずがない!」


 オレは再び周囲の海水を水蒸気へと変えていく。

 しかし、それを超えて、水の槍がオレの肌を浅く切り裂いた。


「ふはははは! どうだ!」


 この程度の傷で勝ったつもりとは、おめでたいヤツだ。

 だが、自分の領地から逃げて来たようなヤツに、負けてやるつもりはない。

 なにより、オレの仲間を喰おうとしたことを、後悔させてやらねばな。

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