第201話 11章:水の星へ覚悟を込めて(13)

「これはまた、人間にしては随分と力ある者がいたものだ」


 悠然と腕組みをしていたポセイドーンは、その手に三叉の鉾(ほこ)を出現させた。

 ポセイドーンの武器として有名なものだ。


 余裕を見せているようで、しっかりこちらを警戒している。

 その証拠に、美海達が逃げるのをあっさり見逃し、三叉の鉾に膨大な魔力を集中させている。


「俺様の食事を邪魔したのだ。退屈凌ぎの相手にはなってもらうぞ!」


 ポセイドーンが三叉の鉾を突き上げると、魔力が水面に向かって迸った。

 その魔力は水面に弾かれ、そのまま横へと広がっていく。


 神域絶界か?

 海面を境界に使ったかなり特殊なタイプだ。

 これで海中から出ることができなくなった。

 さすが海の神といったところか。


 だがオレも相手の得意なフィールドで戦ってやるつもりはない。

 オレは肩に担ぐようにして剣を構え、ポセイドーンに突進。

 水中であることをものともしない速度で振り下ろす。


 並の相手なら真っ二つになっていたであろう一撃を、ポセイドーンは三叉の鉾で受け止めた。

 本人の力量もさることながら、海中で増幅された魔力のせいだ。

 だがここまでは予想通り!


「おおおおおお!」


 オレは自身の背後で魔力を爆発させ、そのままポセイドーンを沖へと押していく。


「なんというパゥワーだ! 君は本当に人間かね!」


 あっという間に日本の領海ギリギリに到達。

 しかし、海面の神域絶界は途切れる様子がない。


 絶界が途切れたところで空中に叩き出してやろうと思ったが、奴を中心に移動するタイプのようだ。

 これでは逃げることもできない。


 まあ……逃げるつもりはないんだが。


 逆に良いことと言えば、強力な技を使っても、津波の心配がないことか。


「君に出会ったのが海中でよかったよ! 陸だったらどうなっていたかわからんな! 君は女達など見捨てて、俺様が海から上がるのを待つべきだった!」

「助ける相手を見捨ててどうするんだよ」


 オレはいったんポセイドーンから距離をとる。


「んん? まさか、俺様を倒すのが目的ではなく、あの人間達を助けに来たと? ほっほう! 組織の人間にしては随分甘いことを言うね!」


 常に朗らかなせいで、逆に表情が読みにくい。


「組織の人間じゃないからな」


 全く無関係とも言えなくなってしまったが。


「むむ? 野良にバチカンのアレに匹敵する力を持つ者がいると? 由々しき事態だな! はっはっはっ!」


 笑うところなのか?


「あんたがここで死ぬことに変わりはないさ」

「若さ故の自信、嫌いではないぞ!」


 ポセイドーンが三叉の鉾を構えると同時に、海中が竜巻のように荒れ狂い始めた。

 地上であれば、コンクリートのビルをも倒壊させられるであろう力だ。


「この海流で微動だにせんか」

「地球が爆発しても耐えられる体なもんでね」

「はっはっ! そいつはすごいな!」


 軽口だとでも思ったのだろう。

 ポセイドーンは鉾を突き出した。

 オレとの距離は10メートルはある。

 何かしらの技をタメていた様子もない。

 だが、嫌な予感がしたオレは槍の軌道から避けた。

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