第200話 11章:水の星へ覚悟を込めて(12)
「二人ともいなかったよ?」
陽キャカップルがフランクフルト片手にのんびり戻ってきた。
おかしい。
いくらなんでも時間がかかりすぎだ。
何かあったのか?
その時、美海のカチューシャが起動したのを感知した。
起動時にオレへと魔力で知らせが届くように仕込んでおいたものだ。
美海はまだ自在に神器を起動できないはず。
なにがあった?
「由依、美海のカチューシャが起動した。見てくるから、由依は周囲を警戒していてくれ」
小声で状況を伝えると、由依は一瞬眉をひそめ、小さく頷いた。
察しが良いのは助かる。
「トイレに行くついでに探してくるよ」
オレは渡辺達にそう言い残すと、カチューシャの反応があった方へと急いだ。
反応は随分沖だ。
買い出しだけのはずなのに、自分の意思でそこまで沖に出る理由がない。
それも、監視員の目をすり抜けてだ。
飛ぶと目立つな……。
オレは渡辺達から見えないところまで来ると、海へ入った。
ある程度の深さまで来たら周囲の目が届かないよう、海中へと潜る。もちろん、水中呼吸の魔法は使用済みだ。
ここまでくればあとは全力だ。
高速で海中を進む。
目的地までは一瞬だった。
今まさに、バニー姿の美海が喰われようとしている。
鬼まつりも一緒だ。
「なんだ貴様ごはぁっ!?」
みなまで言わせず、オレの拳がヴァリアントの腹にめり込んだ。
それと同時に美海の頭を掴んでいた腕を黒刃の剣で斬り落とし、ヴァリアントの胸板を蹴り飛ばす。
地上なら数キロはぶっ飛ばせる威力で蹴ったつもりだが、抵抗の大きな水中ではさほど引き離せなかった。
いや、ただ水中というだけじゃない。
水を味方につけてやがる。
ヴァリアントの周囲の水にはかなり練度のたかい魔力が浸透している。
この周囲一帯全てが奴の味方だと思って良いだろう。
「助けにきてくれてありがとう」
美海は自分の頭からヴァリアントの腕を引き剥がし、投げ捨てた。
その腕はヴァリアントのもとへと戻り、ぴたりとくっつく。
「よくがんばったな」
「何もできなかった……」
「ちゃんと生き抜いただろ。まずはそれだけで十分だ。あとは任せて逃げろ」
「うん。それと、あのヴァリアント、ポセイドーンだよ」
「大物だな」
オレはあえてにやりと笑ってみせつつ、美海と鬼まつりにかかっていた水中呼吸魔法を、念のため上書きしておく。
ポセイドーンにかけられたものは、いつ解除されるかわからないからだ。
「行け」
頷いた美海は水面へと向かった。
さて、なかなか強そうな相手だ。
長時間いなくなると渡辺達への言い訳が面倒だし、さくっと終わらせて戻るとするか。
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