第199話 11章:水の星へ覚悟を込めて(11) SIDE 美海
SIDE 美海
ゆっくり目を開くと、私の体は『変わって』いた。
賭けには勝った!
あとはどう生き延びるかだ。
「えへへ……カズぅ……そんなとこさわっちゃ……やん」
不埒な夢を見ている鬼瓦さんの頭に、ポセイドーンが今まさにかぶりつこうとしている。
「魔力?」
神器の起動に反応したのか、ポセイドーンがこちらを振り向いた。
「ややっ、もう一人はどこだ?」
鬼瓦さんから手を離したポセイドーンは、私がいたあたりを見回すが、その姿を捉えられないでいた。
私の姿を消す能力は、ポセイドーンにも有効らしい。
私はポセイドーンから距離をとりつつ、ゆっくり鬼瓦さんに近づく。
私だけが助かるのならさっさと水面に向かうのだが、そんなことをすれば、もうカズ君の仲間ではいられないだろう。
いったん助けを呼びにいくにしても、その間に鬼瓦さんは食べられてしまうかもしれない。
よし、鬼瓦さんのとなりにまで来れた。
あとは、ポセイドーンの視界から鬼瓦さんが外れた瞬間を狙う。
ふらふらと漂うポセイドーンが、私の鼻先を通過する。
まだ……まだよ……。
ポセイドーンの視線が鬼瓦さんから完全に外れた。
今!
私はまだ眠っている鬼瓦さんの手を取り、全力で水を蹴った。
速いだけという私の能力も、こんな時は役に立つ。
首が折れ曲がりそうな水の抵抗を感じるが、痛がっている場合ではない。
「なに!?」
驚くポセイドーンを置き去りに、岩陰に隠れる。
水の軌跡でバレてしまったが、これでまた姿を消せたはず。
今のうちに逃げよう。
「俺様から気配を隠せる能力とは、なかなかやるじゃないか! だが、水中で逃げ切れるなどと思わないことだ!」
ポセイドーンが上へ手を向けると、その手を中心に竜巻のような渦ができた。
危ないところだった。
もし上へ逃げていたら、あれに引きずり込まれていただろう。
私は岩の影から、下に逃げていた。
ある程度下りたところで、ゆっくり浜の方へと泳いでいく。
水の流れを乱さぬよう、ゆっくりだ。
いまだ夢の中な鬼瓦さんの手を引きながらではあるが、神器のおかげでパワーは十分たりている。
「手応えがない……逃げられただと?」
まだだ……焦ってはいけない。
ゆっくり……ゆっくりだ。
「んん……恋人つなぎなんかして……やらしいんだがら……」
このギャル! いつまで幸せな夢みてんの! しかもなんかピュアだし!
そっと振り返ると、ニヤリと笑うポセイドーンと、しっかり目があった。
戦う? いいえ、逃げるわ!
敵うはずがない。
いきなりエースなんて、アニメみたいに特別な展開、私にはおこらないってわかってる。
私は全力で水を蹴った。
引っ張っているギャルが水の抵抗で多少のダメージが受けているかもしれないが、食べられるよりはマシだろう。
世界記録なんてぶっちぎるほどの速度が出たはずだ。
しかし、私の頭がぶつかったのは、ポセイドーンの胸板だった。
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