第195話 11章:水の星へ覚悟を込めて(7) SIDE 美海
SIDE 美海
「鬼瓦さんって……」
いや、質問をしてもきっと彼女は「答えられない」のだろう。
頭痛はそのせいだ。
なら……。
「人喰い」
私の出したキーワードに、彼女は大きくめを見開いた。
そういうことか。
どれほどあたっているかはわからないが、だいたい察することができた。
要は私と同じなのだ。
ヴァリアントに襲われているところを彼に救われたのだろう。
だけど私と違って『仲間』にはならなかった。
それどころか、魔法で口封じをされたといったところか。
私より先にカズ君の秘密を知っていたことには嫉妬してしまうが、私の方が信用してもらえたと思うと、少し仄暗い悦びがわき上がる。
よくないことだけど、これが人間というものか……なんて、心の中で一人、ニヒルになってみる。
「そっか、宇佐野ちゃんもあいたたたたた!?」
「随分厳しい制約だなあ」
「宇佐野ちゃんはないのおおおおおお!?
本当に厳しい。
彼女の口から世界の秘密が漏れることがないだろう。
やたらと頭を痛がる彼女に周りの目も集まり始めているし、下手な質問は避けよう。
「でもさ、どうやって難波を名前で呼ぶの許してもらえたん? 白鳥さん以外を名前で呼んでるの初めて見たんだけど。そりゃ、まつりが許してもらえるとは思ってないけどさ……」
「んん? 内緒」
勝った!
別に勝負ではないのだけど、不思議な高揚感が湧き上がる。
こんなことだから私はダメだというのはわかってる。
それでも、勉強以外でギャルに勝つことなんて、これが初めてではなかろうか。
「宇佐野ちゃんて、思ったよりイジワルだね」
「あら、あなたたちがそう言うの?」
「んん? んっふっふ」
「ふっふっふ」
互いに笑顔で睨みあう私達。
ギャルと男の子について渡り合う日が来るなんて……。
これもカズ君のおかげだろうか。
そんなこんなで、やっと注文の順番が回ってきた。
1時間くらい並んだだろうか。
少しギスギスしていた気もするけど、思ったより沈黙で気まずい思いをすることは少なかったのでほっとする。
みんなに頼まれた焼きそばや焼きトウモロコシなどをまとめて買い込んだ。
「ちょっとくらい食べちゃってもいいよね」
鬼瓦さんはそんなことを言って、焼きトウモロコシにかぶりついた。
「おいしー」
まあ、どうせあとで食べるのだし、かまわないとは思うけど……。
「宇佐野ちゃんも食べなよ。ほらほら」
「私はいいよ」
「焼きたては今しか食べられないんだよ? ほら?」
無理矢理顔の前につきつけられたトウモロコシを、私はすこしだけかじった。
甘いコーンにほどよいしょっぱさの醤油がきいていて、とても美味しい。
あれ? なんだろう?
ふとお腹に違和感を覚えた。
トウモロコシが腐っていたとかじゃない。
カズ君と修行している時に、体内に魔力を流されていたときのような……。
ううん、それよりずっと禍々しいなにかが……私の……中……に……。
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