第194話 11章:水の星へ覚悟を込めて(6) SIDE 美海

SIDE 美海



「美海ちゃんってさぁ、難波のこと好きなんしょ?」


 海の家のやきそばに並んでいると、鬼瓦さんがふとそんなことを言った。


 私はギャルのこういうところが嫌いだ。

 無断で人の心にずかずか入ってくる。

 ギャルどうしは、互いの庭を踏み荒らすのが文化なのかもしれないが、それにこっちをまきこまないでいただきたい。

 文化が違うのだ。

 もうすこし人と人を隔てる強固な恐怖の領域を持って欲しい。


 鬼瓦さんは、カズ君と一緒にいるときこそネコをかぶっているが、根っこはやはりギャルなのだ。


「…………」


 以前の私なら恥ずかしさのあまり、否定していたところだろう。

 だが、今の私は違う。

 否定するのも嫌だが、彼女の前で自分の気持ちを晒す気にもならない。

 私は口を曲げて黙るしかなかった。


「まつりは好きだよ」


 あっさり言ってくれる。

 それを口にするのに、私にはどれほどの勇気が必要か。

 少し前まで、カズ君のことなど歯牙にもかけなかったくせに。


「でもさ、まつりはあいつにひどいことしちゃったからさ……本人には言えないんだ。許してもらうまでね」


 鬼瓦さんがひどく寂しそうな顔をしたのを見て、私の中に湧き上がっていた怒りがふっと消えていくのを感じる。

 我ながらちょろい話だ。


 だが、かける言葉はみつからない。

 がんばってね、と言うのも違うし。


「なぜカズ君のことを好きになったの?」


 代わりに私は質問をした。

 接点などなかったはずなのに、見た目を清楚系に変えるほどの何が、彼との間にあったのか。

 どうやらギャル仲間すら教えてもらえないらしい。


「それはちょっと言えないんだ」


 意外な答えだ。

 言いたくないのではなく、言えない。

 彼女の様子から察するに、むしろ言いたそうに見えるのに。


「どうして?」

「その理由も……言えないの……」


 辛そう……ではない?

 言いたくてうずうずはしてるけど、どこかその状態に愛しさすら感じている顔だ。


「もしかして……カズ君との約束なの?」

「う……いたたたた」


 急に鬼瓦さんが頭をおさえだした。

 頷こうとしたら頭痛がした?

 かき氷はまだ買う前なのに?


 私は今、マンガやアニメのような世界に生きている。

 そう考えると、普通ではない理屈も通る。


 もしかして……。


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