第193話 11章:水の星へ覚悟を込めて(5)
「ぎゃっはっはっ! どうしたんだよ!」
渡辺の腕を掴んでいた男が、バカ笑いをあげながら彼女の胸を鷲掴みにした。
渡辺のことなどなんとも思ってはいないが、自分の知り合いがそんな目にあって良い気分はしない。
昔はこんなことも許される緩い時代だった……わけねえから。
普通に事案である。
それにしても仲間が倒れたというのにひどい話だ。
すぐお前も同じ目にあうんだがな。
オレは男に近づくと、先程と同じように小指でみぞおちを突き、気絶させた。
「え? え?」
ずるずると倒れていく男から渡辺は慌てて離れる。
「熱中症かな?」
「え? 熱中症ってこんな倒れ方する?」
思ったより冷静な渡辺である。
とりあえず男二人を処理してしまいたい。
あたりをうろつかれては、せっかくの海の思い出が台無しだ。
二人まとめてかついでいきたいところだが、さすがにそれは目立ちすぎる。
由依に手伝ってもらうのは論外だ。
こんな男達と由依を触れさせるつもりはない。
オレはしかたなく、人気のない岩場に、男をひとりずつ運び込んだ。
来栖も手伝うと言ってきたが、渡辺の傍にいてやれと言うと、二つ返事で頷いた。
さてどうするか。
まさか殺すわけにはいかないが、目が覚めたときにまた来られても面倒だ。
ここなら満潮になってもおぼれることはないだろうしな。
本当なら首だけ出して砂に埋めてしまいたいのを我慢してやるのだ。
ありがたく思ってもらおう。
ただし、ちょっとした罰は受けてもらうがな。
オレは由依から借りてきた日焼け止めで、彼らの胸に「ち○ぽ」と書いてやった。
完全に小学生のいたずらだが、これで自慢の肉体をさらしながら外を歩くことはできなくなるだろう。
ナンパなんてもっての他だ。
伏せ字にしてあげたオレの優しさを噛みしめるが良い。
ふぅ……。
くだらないことに時間を使ってしまった。
「大丈夫だったの?」
渡辺が心配そうな顔でオレを出迎えてくれた。
いつの間にか陽キャカップルも戻ってきている。
こいつら、要領良いというかなんというか。
「ああ、管理の人にあずけてきた。もうここには現れない」
「そっか、ありがとね」
さすが渡辺。人気が出るのも頷ける笑顔だ。
「お疲れ様」
「おう」
一方の由依は、オレを完全に信用しきった顔で穏やかに迎えてくれた。
その笑顔がなんとも心地よい。
「美海と鬼まつりはまだなのか?」
買い出しに行った二人の姿が見当たらない。
「海の家、こんでるみたいだからね」
「じゃ、じゃあオレたちがみてくるよ」「うんうん」
逃げてしまった彼らなりの罪滅ぼしのつもりなのだろう。
陽キャカップルの申し出に首を横に振る者はいなかった。
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