第189話 11章:水の星へ覚悟を込めて(1)

  ■ 11章 ■



 無人島での一件以来、白鳥家の敷地を訓練に使わせてもらっている。

 広大な敷地と丈夫な建物を心置きなく使えるのはありがたい。


 せっかくなので体育館2個分ほどのホールを訓練専用に改造させてもらった。

 具体的には、オレが1日かけてガチガチに結界を張ったのだ。

 外から護るためではなく、内側の衝撃を外に出さないためのものだ。

 これで、中で由依達が多少暴れても大丈夫である。


 さらに訓練中は、双葉の神域絶界の訓練をかねることで、さらに強固な場となる。


「それじゃあ発動させてみてくれ」

「うん」


 美海は緊張した面持ちで頭につけたカチューシャをそっとなぞった。

 しかし、何もおこらない。


「えいっ! えいっ!」


 なんどもこするが、やはり何もおきない。


「カズ君……」


 美海が前髪の隙間から涙目でこちらを見てくる。

 やはり神器の起動が安定しないな。


 しかたない。コツをつかむまではあの手でいくか。


「早く一人で起動できるようになってくれよ」


 そう言ってオレは、美海に手を差し出した。


「ごめんね……」


 真っ赤になった美海がそっとオレの手を取り、自分の胸に押し当てた。

 Tシャツにスポブラという訓練用のラフなかっこうをした美海の胸は、無限の柔らかさでオレの手を包み込む。


「ん……」


 美海が体をビクンとのけぞらせると、カチューシャに魔力が集中していく。


「「むう」」


 由依と双葉が不機嫌そうにこちらを睨んでいるが、事情を知っているので文句を言ってはこない。

 美海はえっちなことを考えるのが、魔力の集中手段になっているということだ。

 特に、オレに関することだと集中力が上昇する。

 今まさにその事実をつきつけられている美海は恥ずかしさで死にそうな顔をしているが、これもまた彼女が選んだ道だ。

 決して役得だなどとは考えてない。


 キャットミーランドの時のように、実戦での緊張下でなら偶然起動することもあるだろうが、そんなものに頼るわけにはいかない。

 命がかかっているのだ。

 この訓練もあくまで魔力を制御するためのきっかけにすぎない。

 オレと出会う前から基礎訓練を受けていた由依や双葉とは違い、美海はズブの素人だからな。


 やがてカチューシャが輝き、美海の体が変わり始めた。

 髪が伸び、手や足に白い毛が生えはじめ、ウサギタイプの獣化と同時にバニーガールのような衣装が生成される。


「はぁ……体が熱い……」


 美海がオレに抱きつき、ぐいぐいと胸を押しつけてくる。


「「むう」」


 由依と双葉が、再び不機嫌そうにこちらを睨んでくる。

 こんな光景を見せられる気持ちはわからんでもないが、オレも恥ずかしいんだから許してくれ。



 美海のヤツ、神器に慣れるにつれて、エロさがアップしている気がするぞ。


 神器に適応してから今日で三日。

 発動を意識的に行えるようになった反面、体内魔力回路が活性化するにつれて、神器の影響をより受けやすくなっているようだ。

 このあたりを制御できないと、戦闘では扱いにくいな。


「じゃあついたての向こう側に」


 オレの指示に従って、名残惜しそうに体を離した美海は、パーテーションの向こう側へと消えていく。

 それと同時に彼女の気配が完全に消えた。


 『核』を合成したハーデースの影響だな。

 神話にある『隠れ兜』からくる能力か。

 視界から外れると、その姿と気配を完全に消すことができるらしい。


 だが――。


 オレは魔法で周囲の空気を凍らせ、ダイヤモンドダストを発生させた。


「さ、寒い……」


 由依達が震えているが、ちょっと我慢してもらおう。


 キラキラと煌めく凍った空気を、風魔法でゆっくりと滞留させる。

 すると、ぽっかりと人型に何もない空間ができあがった。


 静かに、しかし一瞬で間合いをつめたオレは、その肩に手を置いた。

 すると、そこに美海の姿が現れた。


「やはり認識した上で触れると解除されるタイプだな」


 ちなみに、そこに美海がいると認識できない状態で触れても、解除はされなかった。

 『認識できている』の境目がどこにあるのかは、おいおい探っていこう。


「みつかっちゃった……」


 美海がオレの腕にぎゅっと胸を押しつけてくる。

 というか、服装の関係上、完全に挟んできている。


 完全に目がとろんととろけている。

 これを制御できるようにさせるのは、なかなかに難儀しそうだ。



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