第190話 11章:水の星へ覚悟を込めて(2)

 夏休みを利用して、オレ達4人は白鳥家での訓練に励んでいた。

 今は訓練場にしているホールで昼食をとっているところだ。

 今日は由依の作ってくれたカレーである。

 市販のルーではなく、スパイスから作ったという本格品だ。

 オレの知っているカレーとは違う食べ物だが、めちゃくちゃ美味い。


「どんだけ完璧超人なんですか……」


 双葉が悔しそうにしているが、こんなカレーを作れる人はそうそういないので、気にすることないと思うぞ。




 四人で談笑をしていると、ホールの隅に置かれているインターホンが鳴った。

 オレの結界で外界と隔絶されているので、メイドなどが由依に用事があっても、直接呼びに来ることができないのだ。


「このコール音、電話だわ」


 どうやらこのインターホンは、外線にも繋がっているらしい。

 入口へと歩いていった由依は、付属の受話器を取った。


「ええ……いいわ、繋いでちょうだい」


 どうやら相手は渡辺らしい。

 受話器の向こう側の声は、オレにしか聞こえていないだろうが。


「はい。……ええ。……。ちょうどここにいるから訊いてみる」


 由依が電話を保留状態にすると、オレ達の方へと戻ってきた。

 そういや、個人で携帯を持つようになると、保留って会社の電話くらいでしか使わなくなったな。


「渡辺さんが、『みんなで海に行くのだけど、一緒にどうか』ですって。どうする?」


 由依は主にオレを見て訊いてきた。


 正直、全く気は進まない。

 だが夏休みをこのまま訓練だけに費やしてしまってよいのかとも思う。

 オレはもう二度目だし、かまわないのだが、由依達には思い出が必要なのではないか。

 高校のクラスメイトと夏休みに遊びにいくという思い出は、今しか作れないのだ。


「由依と美海がイヤじゃなかったら参加してみるか?」

「こないだの海はひどかったしね。カズが行くなら行くわ」

「わ、私もカズ君が行くなら……」


 二人とも、思ったよりも前向きな回答だ。


「双葉、悪いけど……」

「わかってるって。あたしが混ざってたらクラスの人達もやりにくいでしょ。いってきなよ」

「埋め合わせはする」

「お兄ちゃんがどこかにいくたびに埋め合わせをしてくれるような関係になるってこと?」


 双葉はイタズラっぽい笑みを浮かべた。


「お土産くらい買ってくるさ。カチューシャはあげられなかったしな」


「ごめんね……」

「美海さんが謝ることじゃないですよ」


 そう言う双葉だが、オレからのプレゼントを美海に譲ることになった日、かなり寂しそうにしていたのを見てしまっている。

 何か代わりになる良いプレゼントでも買ってやろう。


「じゃあ、三人とも出席ってことで」


 由依は電話の方へと歩いて行った。




 オレの耳には、受話器の向こう側にいる、渡辺の声も聞こえていた。

 それによると、渡辺に誘われたのは、オレと由依だけだ。

 由依は美海にそうだと気付かせることなく話を進めてくれた。

 こういった気遣いが由依の魅力だろう。

 もっとも渡辺も、美海を仲間はずれにしようと思ったのではなく、一緒にいるとは思わなかっただけのようだ。

 美海の参加をあっさり承認してくれるあたり、さすがの陽キャである。


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