第188話 10章:テーマパーク(17)

 再びキャットミーランドに戻ったオレは、電車で帰宅した。

 宇佐野にも一人で心を落ち着かせる時間が必要だろう。


 そしてオレ達三人は、宇佐野の待つ家へと入った。


「おかえりなさい。これかりちゃったけど、いいかな……。Tシャツよりは透けないかなって……」


 オレの制服のYシャツ一枚姿の宇佐野は、胸元を腕で隠し、もじもじしている。

 その太腿がこすれるたび、Yシャツの裾からパンツが見えそうに……ならないなあ。

 オレのトランクスを履いているならみえてもよさそうなものだが、透けている感じもしないが。

 もしかして何も履いてないんじゃ……。

 たしかにオレのパンツなんてさすがに履きたくないか。


「「裸Yシャツなんて私(あたし)もしたことないのに!」」


 なぜそこで由依と双葉はハモれるんだよ。


「とりあえずこれを着てくれ」


 オレが目で合図をすると、双葉は持っていた袋を宇佐野に手渡した。


「家に帰るまで下着は我慢してくださいね」


 キャットミーランドで買ってきた服だ。

 全身グッズまみれになるが、裸Yシャツよりはマシだろう。


「ありがとう、双葉さん……と呼んでいいかしら」


 着替えを受け取った宇佐野は、双葉におずおずと訊いた。


「さん付けなんていりませんよ」


 まだ親しくない相手に下の名前で呼ばれるのがやや不服なのか、僅かに眉をひそめる双葉だが、あえて拒否するほどではないらしい。


「でも呼び捨てはさすがに……『双葉ちゃん』でどう?」

「それでいいです。ゆ、由依さんもそう呼びますし」

「双葉ちゃん! ついに私のことを名前で呼んでくれるんだね!」


 由依がぎゅっと双葉に抱きついた。


「やめてください。私だけ名字で呼ぶのも変だからですよ」

「もう~照れる双葉ちゃんもかわいいなあ」

「急に子供扱いしないでください!」


 美少女二人のイチャイチャ……ちょっと尊いな。

 なにかとバチバチやりあうことの多い二人だが、こうして仲良くしてくれるなら何よりだ。


「ただしそのカチューシャ、大事にしてくださいね」

「え? うん、もちろんだよ」


 双葉のセリフに宇佐野は首を傾げている。

 「本当は自分がもらったものだから」と言わないあたりが、双葉のよいところだ。

 こんど別の何かをプレゼントしてやらないとな。


「それじゃあ……白鳥さんも『由依ちゃん』でいい?」

「いいよ。私も美海ちゃんって呼ぶね」

「やった! ありがとう! ふふ……こうやって名前呼びに切り替えるイベントって憧れてたんだ~」


 心底嬉しそうな宇佐野である。

 イベントて。


「それで、えっと……」


 宇佐野がこちらをちらちら見ている。


「わかったよ、オレもカズでいい」

「ありがとうカズ君! 私も美海って呼んでね」

「「むう」」


 由依と双葉がそろって口を尖らせた。

 そこはダメなんだ!?


「それはともかくとして、早く服を着てくれないか?」

「ひゃあ!? ごめんなさい!」


 着替えを抱きしめた美海は、部屋に去って行った。

 Yシャツの裾から尻が見え――


「カズぅ?」


 あ、はい。

 由依の鋭い視線がオレに突き刺さる。


 成り行きとはいえ、なかなかに濃いパーティの結成だ。

 オレは異世界での濃い仲間達を思い出し、この場の温かさを感じると同時に、なんとも切ない気持ちになるのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る