第162話 9章:ラブレターフロムギリシャ(19)

「突っ込んでくるぞ! おい! 迎撃しろ!」


 鉄岩が超音速旅客機を指さしながら、慌てふためいている。


「我が父ながらなさけない。普段は偉そうにしているくせに……」


 実の娘にそこまで言われるのも悲しい話だ。

 全くもってその通りでしかないので、同情はしないが。


「オレが行く」


 オレがそう言うと、兵士達は規律正しい動きで道をあけた。


 花道を滑走路に、オレは夜空に飛び立つ。


 島の砂浜からほんの500メートル。

 旅客機は水面すれすれを水しぶきを上げながら飛んでいる。

 その後ろからは、300体のヴァリアント。

 核にひっぱられているからか、本来飛行できないはずのギガースが空中に浮いている。


 オレは旅客機の進路上に構え、尖った機首を正面から受け止めた。

 摩擦で両手がひりひりするが、旅客機は空中でぴたりと動きを止めた。


 オレはそのまま旅客機に魔力を伝わらせ、鈍器のように振り回す。

 巨大な武器となった旅客機を一振りするたび、ギガースの体が数10体ずつまとめて千切れ飛ぶ。

 ギガース達はたまらず散開していく。


 オレは逃げるギガース達を、旅客機を振り回しながらなぎ払った。

 さながら無双ゲーのようだ。


 また、旅客機から一定距離はなれたギガースは海に落下していく。

 核が旅客機の中にあるからだろう。


 水中に散らばったギガースを逃がしては後が面倒だ。


 オレは水中や空中に残ったギガース全てに魔法の糸を伸ばす。

 残っているのは21体。

 その全てを空高くつり上げ、まとめあげた。

 そのギガース団子にむかって、旅客機を叩きつけた。


 ――ドガアアッ!


 旅客機が爆発すると同時に、残ったギガースはこなごなに飛び散った。


 オレは粉々になった旅客機の残骸を海に投げ捨てると、いったん由比達のいる砂浜へと戻る。


「さすがねカズ。というより、今まで見た中で一番派手だったよ」


 かけよってきた由依が、ペットボトルを手渡してくれた。


「すげえよボス!」「あんだけのことをやって軽いスポーツ感覚だもんな」「9割どころか全部一人で倒しちまったぞ……」


 兵士達が口々に驚きの声をあげた。

 その中でも最も態度が豹変したのは、鉄岩だった。


「すごいよ難波君! バチカン最強と呼ばれる彼ですら凌駕する能力だ!」


 拍手をしながら、いやらしい笑顔でこちらに寄ってくる。


「条件はクリアーしましたよ」

「もちろんだ! 難波君と縁を持てるなら、娘の一人や二人いくらでもさしあげよう」


 こいつ……本当にどうしょうもないな。

 だがそれを正すつもりはない。

 これにて契約完了だ。


「その言葉、忘れないでくださいね」


 オレは鬼まつりにしたように、鉄岩に契約魔法を施した。


「あまりに一気呵成に倒してしまったから実感ないが、任務完了だ!」

「いいえ、まだです」


 オレは鉄岩の言葉を遮りながら、旅客機の残骸が沈んだ海を見た。

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