第157話 9章:ラブレターフロムギリシャ(14)
アクセルが魔力放出を始めた数分後、オレと由依以外の全員が脱落した。
「はぁはぁ……くそっ! 全身から魔力放出をしてるヤツが、なんであんなにもつんだ……」
アクセルは砂浜で大の字になり、指一本動かせないようだ。
さすがの由依も、疲労の見える表情で必死に集中している。
疲れた状態で気を散らすと制御がきかなくなり、一気に魔力を放出しきってしまうからだ。
そうしてついに、教官の代わりをしていたオリヴィアも脱落し、オレと由依だけになった。
これ以上、長引かせる意味はないな。
「合わせろ、由依」
由依は返事をする余裕もないらしく、小さく頷いた。
オレは全身から立ち昇らせる魔力を、少しずつ大きくしていく。
「「「おお……」」」
兵士達がどよめくと同時に、由依の額から汗が噴き出した。
よくついてきているが、ここまでだな。
オレは放出する魔力を一気に大きくした。
魔力がビルの五階ほどの高さまで噴き上がった。
本来はこの光、見えないほうがいい。
魔力の一部が、光に変換されてしまっているということだからだ。
よく光を漏らしては、師匠に怒られたものだ。
演歌歌手がろうそくをゆらさずに発声をするようなものだろうか。
「も……もうだめ……」
由依がその場にへたり込んだのを確認すると、オレも魔力の放出を止めた。
「化物め……本当に人間かよ……」
アクセルがぽつりと呟いた。
「普通の人からすれば、あんたらも十分化け物だろ。人間とあんたらの差以上に、オレとあんたらに差があるってだけだ。自分を世界標準だと思うのはやめるんだな」
「くっ……」
アクセルが悔しそうに顔を歪めたが、それ以上文句を言ってくることはなかった。
少し力を見せた甲斐があったな。
他の連中もオレと由依の実力はわかっただろうし、めんどうな絡み方をしてくるヤツはいないだろう。
やはりこういう脳筋連中には最初が肝心だな。
「想像を遥かに超えていたよ。どうだ、オレの代わりに戦闘教官をしてみないか?」
教官がとんでもないことを言い出した。
「あなた達がとる戦略なんて知りませんよ」
「そこはオレがやる。キミには戦術部分をお願いしたい。今のを見て文句を言う者はここにはいないはずだ。アクセルを含めてな」
教官がちらりとアクセルを見ると、顔をしかめた彼は悔しそうに口を開いた。
「ぐ……ぐぬぬぬ……ああもう! わかったよ! わかってたよ! コイツが強いなんてことは、最初に拳を止められた時からな!」
「だそうだ。頼めるね? キミだって自分より弱い者に教わるのはいやだろう?」
「わかりましたよ。ただし、オレの指導は厳しいですよ?」
「安心したまえ。彼らは厳しい訓練には慣れている」
そこまで言うなら、ちょっともんでやるとするか。
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