第139話 8章:ブラッディドリーマー(24)

 視界が完全な闇に染まり、全身の感覚がなくなってどれくらい経っただろうか。

 急に目に光が飛び込んで来た。


 ここは……ラジオパーソナリティーを案内した控え室の前。

 記憶は……残っている!

 成功だ。

 双葉の神域絶界の中にいれば、時間跳躍によるリセットの対象外になる。

 由依も双葉もそばにいないということは、位置はリセット対象か。


 ヴァリアントの顔も覚えている。


 オレは由依に電話をし、双葉と共に体育館へ集合した。




「カズ!」

「お兄ちゃん!」


 二人とも鬼気迫る表情だ。


「記憶は残ってるな?」


 オレの問いに二人は同時に頷いた。


 問題はどうやってヴァリアントを退治するかだ。

 おそらく、体育館に展開される結界が、時間移動の条件の一つだろう。

 ならば、結界を展開される前に倒したい。

 オレの魔力弾が消されたのも、時間移動関係の応用だろう。

 もちろん結界なしでできる可能性もあるので、油断はできないが。


 あのヴァリアントを『ヴァリアントであること』を起点として探知するのは困難だが、彼女自身の魔力パターンからなら可能だ。

 時間転移前に覚えておいた。

 オレはその魔力パターンを探る。


 ………………いた!


 まだ目視はできないが、ちょうど体育館に向かってくるところだ。


 オレは由依と双葉を、ここから見えない位置へと遠ざけた。

 三人そろっていては、記憶が残っていることを感づかれるかもしれないからだ。


 由依達が身を隠したのと同時に、廊下の角からヴァリアントが姿を現した。


「ああいたいた。すみません、学校祭実行委員なのですが」


 オレは営業スマイルでヴァリアントの女に近づいた。


「……なんでしょう?」


 一瞬警戒した彼女だが、オレの記憶が残っていないと確信したのか『人間らしい』笑顔で応対してきた。

 少し考えれば、それでも警戒すべき場面だとわかるはずだ。

 逃げをうつ判断の早さから、用心深い性格なのだろう。

 それでもなお、本人にそのつもりがなくても、根本的に人間を舐めている。

 こういったところが、ヴァリアントの弱点だ。


「他のお客さんから苦情が来てまして、探して欲しいと言われた相手の容姿があなたにそっくりなんです」

「何があったか知らないけど、関係ないわ」


 ヴァリアントの女は露骨に不機嫌になった。

 これからの楽しい食事を邪魔されたからだろうか。


「1,2分ですみますから。ちょっと顔を見せてもらえれば良いだけなんです。僕も仕事でして……どうかお願いできませんか?」

「すぐすむのね?」

「はい、それはもう」

「いいわ」

「ありがとうございます!」


 ここでもめるのは得策ではないと判断したのだろう。

 ループを使って逃げるような相手だ。

 すぐにむちゃな暴れ方はしないだろうという読み通りである。


 オレはヴァリアントを体育館の裏へと案内した。


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