第132話 8章:ブラッディドリーマー(17)

 ついにやってきた、学園際二日目にして、一般公開日当日。

 学内は朝から老若男女様々なお客さんでごったがえしていた。

 『実行委員』の腕章をつけたオレと宇佐野は、しょっちゅうお客さんから話しかけられた。

 その殆どが、『ユリミラ喫茶はどこだ』という問い合わせである。

 狙いは大成功だ。

 どう考えてもキャパオーバーだが……昨日の時点でそうだったし、由依達ならなんとかするだろう。


 こっちはこっちでゲストの案内をしないとな。


 学園祭一般公開日の目玉の一つが、人気ラジオパーソナリティーによるトークショー&公開録音だ。

 ユリミラ喫茶の宣伝に使わせてもらったのも記憶に新しい。

 オレの仕事として、そのパーソナリティーの案内がある。

 一時的に宇佐野と別れての仕事だ。


「ようこそいらっしゃいませ。実行委員の難波です」


 関係者用のエントランスに現れたパーソナリティーを、控え室に案内する。

 一般客の目に付きにくい導線は確保済みだ。


「やあどうも。ハガキもくれたコだよね。いやあ、色々考えるもんだ。僕が高校生の頃はもっとアホだったよ」

「たまたま思いついただけですよ」

「それを実行に移せることが大事さ」

「ありがとうございます」


 そんな会話をしながら、パーソナリティーを控え室へと通した。

 ちょうどそこに現れたのは、差し入れを持った由依だ。

 この時間に届くようにお願いしておいたのだ。

 食器類は、商店街で援助を依頼した時に借りた良いモノを使っている。


「うわあ……キミのところの制服? めちゃくちゃかわいいね」

「着てるモデルが良いので」

「ちょっとカズ……」


 こういったことを言われ慣れているはずの由依が、めずらしく真っ赤になった。


「あれ? キミたちもしかしてつきあってるの? うらやましいなあ。局内でもこんな美少女、お目にかかれないよ」

「つきあってるわけじゃないですけどね」

「おや、そうなの? これは余計なことを言ったね。お兄さんは二人の未来を応援しているよ」

「うぅ……し、失礼します……」


 由依は真っ赤になったまま礼をすると、控え室を出て行った。


「それでは、しばらくこのままお待ちください。出番の前に、担当者が説明とご案内にまいりますので」


 続いてオレも礼をして控え室を出た。

 ここからは、メインステージ担当者の仕事だ。

 オレは三十分の昼休憩である。

 手元の時計をみると、現在13時。

 予定通りの進行だ。


 自分のクラスへ向かってみるか。

 さすがに今日は混雑がすごいので、食べられるとは思えないが。


「きゃっ」


 オレが教室へと向かう廊下の角を曲がると、反対側からやってきた宇佐野とぶつかりそうになった。


「よかった、会えた」

「オレを探してたのか?」

「うん……あのね……」


 宇佐野はいつにもましてモジモジしている。


「どうした?」

「校内がどこも混んでるかなって思ってね。お弁当、難波君のも作ってきたんだ……。ほら、こないだ予算のお仕事手伝ってもらったでしょ? だから、そのお礼に一緒にどうかなって……」


 宇佐野の手には、大きめの巾着袋が下げられていた。

 あれが弁当だとすると、二人分はあるだろう。


「ありがとう。じゃあ、さくっと食べちゃうか。休憩時間は短いしな」

「う、うん!」


 お礼だと言うなら、無下にはしにくい。

 クラスの様子を見に行く約束をしていたわけではないし、彼らなら上手いことやっているだろう。

 ここはありがたく頂いておこう。

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