第131話 8章:ブラッディドリーマー(16)
◇ ◆ ◇
学園祭初日の金曜日。
初日は学内関係者以外は立ち入り禁止だ。
一般客の来場が解放される明日が本番ではあるが、今日は今日で、身内でのお祭り感がある。
実行委員会としては、明日のリハーサル的な意味合いも強い。
実行委員は、時にはクラスごとにコンビを組み、時には単独で学内を走り回ることになる。
とはいえ、初日は一般客からの問いあわせなどがない分、トラブルも少ない。
ステージの進行や、各クラスとの連携などが主な仕事となる。
「午前中は未解決のトラブルなしか。今年の実行委員は優秀だな」とは、実行員顧問のセリフである。
時刻は13時半。短い時間ではあるがやっと休憩をもらえた。
大きなトラブルなしとはいえ、慣れないメンバーのフォローもすると、どうしても予定通りとはいかないものだ。
「お昼はクラスで食べよう」
「うん」
オレは同じタイミングで休憩に入る宇佐野を連れて、自分のクラスへと向かった。
教室に近づくと、廊下には長蛇の列ができていた。
入り口から『最後尾』の看板を持つ生徒まで、百人近くが並んでいる。
『最後尾』の看板は、オレが提案したものだ。
同人誌即売会で得た知識である。
この看板には、『本日はもう入れない可能性があります』と張り紙がされている。
「あ、難波君と美海ちゃん、こっちこっち」
ユリミラ風の制服で列整理をしていた渡辺がオレと宇佐野に気付いてくれた。
オレ達が通されたのは、客席になっている自分達の教室ではなく、調理や準備を行う隣の教室だ。
隣はステージでの合唱が出し物のため、着替えの時以外は借りてしまっている。
「カズ! お昼を食べに来たんでしょ。ちょっと待っててね」
一番人気らしい由依がオレ達を案内してくれた。
といっても、準備室の隅に置かれた机とテーブルにだが。
「何か食べるものが欲しいんだが、一番あまってるのでいいぞ」
「わ、私も……」
宇佐野は相変わらずオレ以外の前ではまだオドオドしている。
「あまってると言っても、このままだともうすぐ完売しちゃうのよね」
「だろうなあ……」
あの行列だもんな。
「カズの注文するものなら、クラスのみんなは誰も文句言わないと思うよ」
評価してくれるのは嬉しいが、どうにも慣れなくてこそばゆいな。
「じゃあ、オススメをくれ」
「オッケー! 休憩をもらってくるから、三人で一緒に食べましょう。私もご飯まだなの」
「あいつまたきれいどころをはべらせて……」「く……美海ちゃんも難波に取られるのか……」
キッチン担当の男子達からの恨みがましい視線に突き刺ささってくる。
「(美海ちゃんがかわいいってわかったとたんコレだよ。ほんと、ああいう男子はダメだよね)」
そんな様子を見ていた渡辺が、宇佐野にそっと耳打ちをした。
「いや……えっと……」
「ふふ……そういう困っちゃうところもかわいいなあ」
そう言って宇佐野の頭を撫でた渡辺は、忙しそうに離れていった。
「渡辺さんに気に入られたみたいね」
入れ違いで現れたのは由依だ。
トレーにグラタンとアイスティーを三人分乗せている。
グラタンはレンジで温めるだけでお店と同じ味を出しやすいので、メニューに選ばれたのだ。
「ええー!? 白鳥さんいないのかよー?」
隣の教室からはそんな声が聞こえてくる。
「大人気だな」
「まあ……ね……」
由依は困ったような笑みを浮かべた。
学園祭の初日は、クラスも実行委員側も大きなトラブルがなく終了した。
クラスの方は、かなりの人数が店に入れなかったようだが、渡辺がうまいことなだめたらしい。
こういうところのしきりは流石だ。
さて、問題は明日である。
何もおきないことを祈るばかりだ。
「カズがいれば大丈夫だよ」
由依は帰り道にそんなことを言ってくれたが、フラグにしか聞こえないんだよなあ……。
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