第130話 8章:ブラッディドリーマー(15)

 そんなこんなで学園祭前日。

 今日は授業はなく、まる一日準備時間にあてられる。

 学内はドタバタと準備に追われる生徒達で溢れていた。


 忙しいのに楽しそう。

 そんな光景は、会社でも異世界でも見られない、特別なものだ。

 教室もユリミラ風に飾り付けられ、いつもととは全く違う雰囲気だ。


 飾り付けの準備はユリミラバイト組女子以外のメンバーで行った。

 小物なども毎日こつこつと作っていた。


 オレは正直ちょっと苦手だが、クラス一丸となってがんばろうという雰囲気に溢れている。

 予算が少したりなくなった際、有志メンバーで日雇いバイトをしたのもよかったのかもしれない。

 オレも参加したのだが、引っ越しのバイトでは大いに役立った。

 まわりから驚かれたり、バイト代に少し色をつけてもらったのも、ちょっとした良い思い出である。


 バイト組もまた、なんだかんだで楽しかったようだ。

 由依はクラスの女子と少し仲良くなれたと喜んでいた。


「さあみんなー! お披露目だよー!」


 教室の扉からぴょこんと中に顔だけだしたのは渡辺だ。

 彼女の合図で、服部が作ってくれた制服に身を包んだ女子達が教室に入ってくる。


「「「お……おおおおおお!」」」


 男子達の歓声が廊下まで響く。

 用意できた制服は10着。

 これをシフトで着回すことになるのだが、今回のお披露目はクラスの中でもかわいい娘を中心に構成されている。

 メンバーは渡辺のチョイスだろう。


「白鳥さんのお胸が強調されてなさる……ありがたや……」「オレはやっぱ渡辺ちゃんだな」「ギャルをやめたまつりちゃんもいいだろ」「俺はむしろギャルだった頃のほうが……」


 渡辺と由依が注目を集める中、清楚版鬼まつりなどにもファンがついているようだ。


「あれ? 端のコ誰だ?」「あんなかわいいコうちのクラスにいたっけ?」「助っ人か?」


 そんな中、教室の隅で短いスカートをおさえてもじもじする巨乳美少女に注目が集まった。


「どう……かな……」


 その美少女はちょうど近くにいたオレの方にちょこちょこと寄ってきた。


「おう、似合ってる」

「ありがと……」


 その美少女は顔を真っ赤にして俯いた。


「おい難波、誰だよそのコ」


 オレの脇をつついてきたのは、オタク仲間の佐藤だ。


「何言ってんだ。宇佐野だろ」


「「「……ええええ!?」」」


 驚く男子達に、宇佐野は怯えてオレの後ろに隠れてしまった。

 長い前髪は白いヘアバンドでアップにし、顔を見せた宇佐野はかなりの美少女だった。


「どうよ男子達。美海ちゃんはがんばってくれてるのに、実行委員会が忙しくてクラスに出られないからね。衣装だけでも着てもらったらコレよ。逸材だったわ」


 胸を張る渡辺だが、その声の奥には、僅かに悔しさが滲んでいるようだ。

 クラスの誰も気付かないレベルでだが。


「マジか……」「宇佐野さんてあんなかわいかったんか……」「これはオレでもイケるか?」


「あの……もう着替えてきてもいいかな……」


 そんな男子達の反応に怯えた宇佐野は、オレの後ろでぷるぷる震えている。


「ごめんごめん。着替えてきていいよ」


 渡辺がウィンクをしながら片手で拝むようなポーズをするのを見ると、宇佐野は教室を出て行った。


「宇佐野さんとずいぶん仲良くなったんだね」


 足音も無く近づいて来たのは由依だ。

 顔も目も笑っている。

 だが幼なじみのオレにはわかる。

 爆発しそうな感情を抑えている時の顔だ。


「まあな」

「良いこと……だよね」


 由依は少しだけ寂しそうに、オレから視線を逸らせた。


「学園祭を楽しめる人が増えるほど、由依も楽しいだろ?」

「あ……そっか……そうだよね! うん、そう! ありがとね!」


 これだけで、由依に学園祭を楽しんでほしいというオレの想いは伝わったのだろう。

 由依は満面の笑みで返してくれた。

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