第129話 8章:ブラッディドリーマー(14)

 夕焼けも終わりかけ、わずかに月が見え始めている空。

 駅に続く道のりを、オレは宇佐野と歩いていた。

 ううむ、何を話して良いかわからん。

 コミュ力がほしい。


「今日はありがとう」


 いつものように、宇佐野が俯きながらぽつりと言った。


「オレが困ってる時に助けてもらうから、そんなに固くなるなって」

「か、固くだなんてそんな……」


 なぜそこで赤くなるんだ?


「……白鳥さんに怒られちゃうかな」

「どういう意味だ?」

「だって……一緒に帰ったりして……浮気だと思われちゃうよ」


 ピュアすぎ! 眩しい!

 高校生ってこんな感じだっただろうか?


「その程度で浮気とは言わないと思うが……。そもそも、由依とは別に付き合ってるわけじゃないしな」

「え? そうなの? 私てっきり、白鳥さんの巨乳と黒タイツで……」


 何を言ってるんだお前は。


「まあ、一番大事な人間なのは確かだが」

「う……そうだよね……。すごいことをはっきり言うなあ」


 あとは双葉もいるが、家族とは比べられないしな。


「私ね、学園祭が楽しみなんだ。こんなこと、人生で初めて。実行委員だって、すごく嫌だったのを言い出せなかっただけなのに」

「気持ちはわかる」

「わかるのって、学園祭が楽しみって部分じゃなくて、それが初めてってことだよね?」

「まあな」

「やっぱり。私達、同じ人種だなって前から思ってたんだ」

「実はオレもだ。教室の隅でいつも本を読んでるような奴は、間違いなくオタクだからな」

「難波君みたいに、擬態をするほど器用でもなかったけどね」

「バレバレだったみたいだけどな」

「そこはほら、心の持ちようというか……」


 中途半端なフォローが心に痛いぞ。


「でも難波君、ここ最近ですごく変わったよね」

「そうか?」

「そうだよ。色んなことができるってだけじゃなくて、なんだかすごく大人な感じがするの。なにかあったの? まさか、大人の階段を登るような……」

「なにもないって」


 うすうす感じてはいたが、宇佐野って、すぐそっち方面に脱線するな。


「変わったのは宇佐野もだろ」

「そう……かな? そうだよね。男の子と二人で帰るなんて、考えたこともなかったもの」

「こんなに話しやすいのにな」

「それは相手が難波君だからだよ」

「オタクどうしだからかな」

「それだけじゃないと思いたいな……なんてね」


 はにかむ宇佐野の照れた瞳が、外灯に照らされた前髪の隙間からの見えた気がした。


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