第128話 8章:ブラッディドリーマー(13)

 できた! こいつをチャットツールで送……れねえ!

 そんなもんなかったわ!


「USBメモ――もないか、フロッピーか何か持ってるか?」

「これならあるけど……」

「それでいい!」


 宇佐野が取り出したのはZipだ。

 ファイルの圧縮フォーマットのことではない。

 分厚いフロッピーみたいなもので、このタイプはなんと100MBも保存できるのである。

 まさに100メガショック!

 いや、あっちは単位がbitだが。

 日本ではあまり普及しなかったが、MOよりも書き込みが圧倒的に速い記録媒体だ。

 そんなことを考えているうちにコピーは完了した。


「宇佐野はこっちの書類をここに入力していってくれ。終わったらオレのとマージする」

「マージ……? 魔法使いのモンスターがどうしたの?」

「オクトパスクエストの話はしてねえ! いいからやってくれ」


 ゲーマーなのか? イメージはぴったりだが。


「う、うん。そうだね。がんばる」


 このコ、基本はすごくマジメなのだが、時々思考が変な方向に飛んでくなあ。


 オレと宇佐野が黙々と打ち込み作業を続けていると、管理担当らしき男性教員がやってきた。


「そろそろ閉めるぞー」

「すいません、あと10分下さい。実行委員の仕事でどうしても今日中に終わらせないといけなくて」


 オレはそう言いながらも手を動かし続ける。


「そう言われてもなあ……おお? タイピング速いな。いったい何を打ち込んで……へえ、このシート、お前が作ったのか」

「そうです」

「やるなあ。見やすいし、自動計算もばっちりか。おお、まとめシートもしっかりしてる」


 情報教育担当の教員でさえ、人材不足でyahaaの読み方すら怪しかった時代だ。

 一年生のときの教員は、一年間ヤッハーと呼んでいた。正しくはヤハーである。


「先生……少しでも早く終わらせますんで……」

「悪い悪い。10分だな」


 許可をもらったところで、入力作業に全集中だ。

 何がとは言わないが、これまで普通に使ってた言葉が急に流行ると、真似してると思われるから使いにくくなるってあるよな。


 約束の時間まで5分を残して、二人の入力作業は完了。

 今度はデータの入力されたファイルをZipで移動、コピペでマージする。

 ざっと暗算で結果を確認して……よし、大丈夫だな。


「印刷は明日の朝でも間に合うだろう

「ほんとにおわっちゃった……」


 宇佐野はオレが渡したZipを持ち、ぽかんと口をあけている。


「先生、ありがとうございました」

「おう、おつかれ。今度コンピューターについて語ろうぜ」


 なるほど、そういう趣味の人か。嫌いじゃない。


「学園祭が終わったらでお願いしますね」


 そう言い残して、オレと宇佐野はパソコンルームを後にした。


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