第121話 8章:ブラッディドリーマー(6)
ユリミラを訪れた翌日の昼休み。
由依には更衣室でユリミラの制服に着替えてもらった。
「白鳥さんがユリミラの制服を着てるだと!?」「おい! みんな呼んで来い!」「お……おっぱ……すんごい……」「ユリミラ制服で黒タイツって初めて見たぞ。これはこれで……ごくり……」
ちょっと廊下を歩くだけで、学年問わず由依への視線がものすごい数集まってきた。
学園祭前だけあって、廊下に作りかけのセットが置かれていたりしていて、校内はいつもと違う雰囲気だ。
それでもなお、ユリミラの制服を着た由依の存在感は圧倒的だ。
こうして注目されることも計算のうちだ。
注目され慣れている由依はしっかり平静を装っているものの、さすがに少し恥ずかしそうだ。
オレ達が向かっているのは写真部である。
フライヤーやポスター用の写真を撮ってもらうためだ。
もちろん被写体は由依である。
最初は自宅でリラックスした感じで撮影しようかと考えていたのだが、機材がないのと、絵面が安っぽくなってしまう。
高校生ってことを推すなら、やっぱり学校がいい。
「白鳥さんを被写体に!? も、もちろん! 撮らせてくれるだけでも幸せだよ!」
写真部の丸めがね君は、撮影への協力を二つ返事で了承してくれた。
どうやら彼も由依のファンらしい。
撮影場所は中庭が見えるホールにした。
後ろには教室も写る角度である。
ここならば開放感もある上に学生らしさも出る。
日当たりも良好だ。
オレは事前に料理部から借りてきたトレーを由依に渡した。
とりあえず好きなポーズをとってくれ。
「ポーズと言われても、家族写真くらいしか撮ったことないよ?」
そう言いつつも、笑顔でポーズを撮る由依。
「すごい良いですよ。こんな写真が撮れるなんて幸せです!」
カメラマンのテンションもうなぎ登りだ。
そんな撮影風景を一目見ようと、ホールは生徒達でいっぱいになった。
それにしても、胸を強調したこの制服、由依が着ると破壊力がすごいな。
ちょっとポーズを変えるだけで、胸がたゆんたゆん揺れている。
ブラウスのボタンが今にも飛びそうだ。
一通り撮り終わったところで、オレは口だけで由依に「セリフ、セリフ」と伝えた。
「学園祭前の期間限定ですが、駅前のユリミラでアルバイトをすることになりました。
明日からお客さんの前に出る予定ですので、ぜひ皆さんいらしてくださいね」
「「「うおおおお! 絶対行きます!!!」」」
由依がにこりと笑うと、ガラスが割れんばかりの大歓声が起こった。
この盛り上がりを見ると、学内だけでも売上倍増には十分な気がしてしまうな。
その後、宣伝をかねて少し遠回りをしながら更衣室へと行き、今度は渡辺の番だ。
由依ほどではないが、渡辺もまた校内で大人気だった。
廊下を移動中も、たまに笑顔で手を振ると、男子達の顔がへにゃへにゃになっている。
このあたりの愛想の良さは由依以上だな。
バランス良い組み合わせの二人だ。
本当は二人並んでの写真もほしいところだが、制服が一着しかない。
2000年代以降なら比較的簡単に合成写真も作れたんだがな。
この時代では、素人の合成はどうしても粗がみえてしまう。
ならば、ポスターのデザイン側でなんとかする方がよいだろう。
「白鳥さんと……ええと、今の美少女が二人とも働く店とかすごいな」「オレ絶対行くわ」「なんで学内で撮影なんだろうな? ユリミラも白鳥さんの美しさに目をつけたのか?」
渡辺の撮影が終わると、歓声と拍手が巻き起こった。
学内への宣伝はこれで十分だろう。
あとは学外向けだ。
駅の構内にポスターを貼れたりすれば効果は高いかもしれないが、価格も高い。
テレビCMなどもってのほかだ。
とはいえ作戦はある。
次に動けるのは放課後だな。
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