第122話 8章:ブラッディドリーマー(7)
撮影会をした日の放課後、オレは学校の近くにある商店街を歩いていた。
これから五年もすれば、大型ショッピングセンターの余波を受け、シャッター街と化すのを知っていると、少し切ない気持ちになる。
となりにいるのは由依……ではなく、うちのクラスからもう一人選出された学園祭実行委員、宇佐野美海(うさのみみ)だ。
長い前髪で目を隠したボブカットの少女である。
横髪を片方三つ編みにしていて、なにかとそれをいじるのがクセだ。
双葉と同じくらいの身長で、いつも教室の隅で本を読んでいる。
小柄なこともあって存在感が薄く、なんとなく図書委員のイメージが強いのだが、オレと同じでくじ引きによる学園祭実行委員送りとなったのだ。
「難波君はすごいよね」
宇佐野がいつものように俯きながら、ぽそりと言った。
「何がだ?」
「渡辺さんみたいなキラキラした人と対等に話してるし、あの白鳥さんとも仲良いし、なにより難波君の意見でクラスが回ってる気がするんだよ」
「買いかぶりすぎだ。たまたま上手くいってるだけだよ」
「ううん……結果はそうかもしれないけど、難波君がやってるのはすごいことだよ」
こちらの世界におけるアラフォーまでと、あちらの世界での経験分、チートしてるようなもんだからな。
なんとも自慢しにくいことではある。
「褒め言葉と受けとっておくよ」
「うん……憧れちゃうよ……。あっ……前までは私みたいに目立たないタイプだったのに、すごいなって……」
宇佐野はただでさえいつも下に向けている顔を、さらに俯かせた。
オレ達の目的は、商店街で学園祭のスポンサーをしてくれるお店を探すことだ。
学園祭のパンフレットや、校内で宣伝する代わりに、お金を出してもらったり、模擬店で使う材料を安く仕入れさせてもらったりするのだ。
毎年協力をしてもらっているお店には既に話がついており、今日は追加での飛び込み営業である。
話を聞いてもらうお店には、事前に電話で連絡済みだ。
「ありがとうございます!」
何店舗かまわり、新たに食器屋でスポンサーを得た。
和洋の高級食器を扱うお店である。
さすがに生徒の模擬店に貸してもらえるような安物は置いていないので、大人達の来客用に使うものを貸し出してくれるらしい。
「もう一つ、ご相談があるのですがよろしいでしょうか?」
「なんだ?」
気むずかしそうな中年の男性店主が、禿頭を光らせながらぎろりとこちらを睨んで来る。
だがオレは、この老人がそれほど怖い相手でないことを知っている。
常に不機嫌そうにしながらも、こちらの話はしっかり聞いてくれているからだ。
あと、お客さんがいないときは、カウンターの向こう側でグラビアアイドルの写真集をいつも見ているのを知っている。
「学校全体ではなく、僕のクラスの話なのですが、模擬店を出すことになりまして。そちらにもご協力いただけないかと」
「模擬店?」
「はい。ユリミラ風の制服を着て、喫茶店をやるつもりです」
オレは日中に学校のパソコンを借りて作っておいたフライヤーを店主に見せた。
由依と渡辺の写真をできるかぎり大きく載せたものである。
クラスの出し物を宣伝しているように見せて、端の方に『ユリミラでアルバイト中だよ』と吹き出しでかわいく記載している。
店舗名も書いてあり、このバージョンのフライヤーは、実はユリミラへの誘導だ。
「ふ……ふむ……これはなかなか……」
店主の視線は、由依の胸に釘付けだ。
狙い通りである。
「クラスの模擬店ですが、紙皿などではなく、本格的にやりたいんです。
そこで、このお店にあるような食器とまでは言いませんが、安い陶器のお皿が手に入るルートをご紹介頂けないかと」
洗い物をする必要が出るし、紙皿や紙コップよりどうしても回転率は落ちる。
だが、その分単価を上げる方針でいく。
学園祭は基本的に安価に提供するのが鉄板だが、実は客の財布の紐は緩んでいる事が多い。
学内のみの土曜日は紙コップを使うが、一般開放となる日曜は陶器の食器を使うという作戦だ。
「なるほど。それに協力して、ウチにどんな利点があるのかね? 同じ駅前に店を構えると言っても、チェーン店はある意味、商店街のライバルだが」
店主の言うことはもっともだ。
もちろんそれに対する回答は用意してきている。
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